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柴崎友香「世田谷の公園」

第三回 兵庫島公園

冬の寒い日と寒い日のあいだ、急に晴れ渡って暖かい午後に、二子玉川に行ってみました。二年前に訪れて以来だったのですが、駅周辺の様子がすっかり変わっている。大きなショッピングセンターやタワーマンションができて、道路も人や車でいっぱい。

その賑わいから南へ歩き、真新しいマンションの横を通り抜けると、多摩川の河川敷、兵庫島公園へ出ます。土手の階段を下りると、ぱっと開ける視界。横たわる川面と真っ青な空がまぶしい。

兵庫島橋を渡る。小さな池を囲むように広がる公園は、平日の昼間だったせいか、近所のおじさん、おじいちゃんたちが、釣りをしていたり、お茶飲みながら井戸端会議をしていたり。駅前の華々しいイメージとは違っていて意外に感じながらも、昔ながらの地元の暮らしが垣間見れたようでほっとする。

東側は東急田園都市線、西側は国道246号の高架が、対岸へと架かる。河川敷のちょうど真上あたりに東急の二子玉川駅のホームがあり、電車を待つ人影も銀色の車両もよく見えます。

川縁には、お弁当を広げるカップルの姿もちらほら。川の流れのほうへ近づいていくと、流れる音がよく聞こえる。穏やかだけど、決して途切れない水の音。なぜこんなに耳に心地いいのか、と思いながら見回すと、いつのまにか堤防からだいぶ離れている。

遠い対岸、広い河川敷、見渡す限りの青空に、やっぱりときどき普段とはスケール感の違うところに来てみるのはいい、と思いました。それに、水音と、電車と自動車が走るのが小さく聞こえるだけで、ほかにはなにも音がない。自分の体のサイズや感覚を、いつもと違って捉え直すことができるような気がします。

遊具などはない、ただ河原だけの公園ですが、そのなにもなさが、かえって貴重な場所です。

柴崎友香(しばさき・ともか) 
1973年大阪市生まれ、世田谷区在住。小説『その街の今
は』『寝ても覚めても』『虹色と幸運』他、エッセイ『よそ見津々』など著書多数。
http://shiba-to.com/