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今月の特集

今月の「世田谷」
エネルギーの 地産地消を目指して

取材・文 小林英治

東日本大震災以降、電力を始めとしたエネルギー問題に人々の関心が高まっています。世田谷区でも、区内施設の電力に競争入札の結果PPS(新電力 ※1)を導入したり、戸建住宅での太陽光パネルの設置促進に取り組むなど、独自の取り組みを進めています。また民間でも地域PPS設立へ向けての動きや、市民による再生可能エネルギーの活用の模索がなされています。今月は、IID 世田谷ものづくり学校にオフィスを構えるベンチャー企業「みんな電力」の大石英司さんをナビゲーターに、世田谷区内のエネルギーシフトへ向けたさまざまな取り組みを紹介します。

※1 PPS(新電力)とは、既存の大手電力会社である一般電気事業者とは別の、特定規模電気事業者(PPS:Power Producer and Supplier)のこと。2005年4月以降、法的には契約電力が50kw以上の大口需要家なら一般電気事業者がもつ電線路を通じて電力供給を行う事業者と自由に契約できることになっているが、PPSが総電力に占めるシェアは3~4%に止まっており、安定供給とコストの面など課題も多い。

大石英司さん(左)と上田マリノさん

 

みんな電力

エネルギー作りに個人が参加できるきっかけをつくる

エネルギー作りに個人が参加できるきっかけをつくるみんな電力株式会社は、「小さな電力に愛とメリットを!」をコンセプトに、子どもからお年寄りまで、みんながエネルギー作りに参加できるサービスを開発し、自然エネルギー100%社会の実現と個人のエネルギー自立生活の実現を目指すベンチャー企業(IID 120号室に入居)。自社開発した携帯型ソーラー充電器「手のひら発電 空野めぐみ」は、USB接続のバッテリー機能に加え、太陽光で発電するたびにポイントがたまるシステムを導入し、友だち同士で充電情報を共有できるソーシャル機能を盛り込んでいる。運営するエネルギー・エンターテインメント・サイト「エネとも」では、創エネ&省エネに関する情報を紹介するほか、使用電力量を管理する「エネともノート」を開設。地味になりがちな個人の省エネ活動をソーシャルで共有することでゲーム感覚で実践でき、節電の取組みにポイントを付与して、海外旅行特典などへの交換が可能になっている。

 

携帯型ソーラー充電器「手のひら発電 空野めぐみ」

 

代表の大石英司さんによると、世田谷区には他の自治体と比べてもエネルギー問題に関心が高い住民が多いという。一方で、具体的に行動を起こしている人はまだ少なく、その理由に「何をしたらいいか分からないから」と答えている。「エネルギー問題を解決する糸口は、こういった関心はありつつも何をしたらいいか分からないという人たちに、参加のきっかけを作ってあげることにあるのではないかと思っています」。

 

世田谷みんなのエネルギー

市民が協同して教会に設置した太陽光発電

6月18日(火)、下北沢にあるカトリック世田谷教会の建物に市民の協同で10.01kwの「カリタス下北沢ソーラー市民協同発電所」が設置された。市民サポーターから協賛金を募ったのは、「地域からのエネルギーシフト」を掲げる、世田谷みんなのエネルギー。予測では年間9,000kwの発電が見込まれ、発電による売電収入は、設置費用の返済と今後の教会や地域のエネルギーシフトのための活動に使用される。共同代表の一人である浅輪剛博さんによれば、元々は持続可能な社会への移行を目指すトランジション世田谷茶沢会で開いたワークショップでつくった太陽光パネルを、昨年4月に教会で行なわれた下北沢あおぞらマルシェで展示したのがきっかけ。「神父さんや信徒の方が、“天からの無償のエネルギーを生かし、自然の恵みへの敬意と感謝を現すシンボルになる”と、興味を持ち賛同者を募りはじめました」。それから約1年かけて実現した教会の太陽光発電は、新しい社会づくりのシンボルとなる。「第2第3のソーラーパネル設置だけでなく、今後はエネルギー効率の良い住宅環境の整備などにも取り組んでいきたい」とのこと。サポーターは現在も募集中だ。
http://setagaya-energy.jimdo.com

カトリック世田谷教会に設置されたソーラーパネル(左)と点灯式の様子(右)

世田谷新電力研究会

民間主導による世田谷発の地域PPS事業構想

PPSの普及には、民間主導による事業化の促進が不可欠だが、世田谷区では民間主導のフォーラム開催などの取組みが既に活性化している。今年3月には区民約350人が参加した「世田谷発 電力を選べる社会へ」、4月には約70の企業・団体が参加した「同~ビジネス編~」を主催したのが、世田谷新電力研究会(事務局・みんな電力株式会社)だ。実行委員会には生活協同組合を中心とした民間団体や企業が名を連ね、一般家庭での電力自由化と地域PPS世田谷電力株式会社の設立を構想している。代表を務める徳江倫明さんは、日本最初の有機農産物専門流通団体の創立メンバーとして、共同購入や流通システムの開発を手がけてきた人物。「有機農業が拡がった背景には、少々割高でも安心で安全な食物を求める消費者がいて、ビジネスとして成立したからです。様々なアンケート結果をみても自然エネルギーによる電力を購入したいという人は一定の割合で存在するので、エネルギーも有機作物と同様に、まずは地域単位での共同購入はできないかと考えています」。
民間企業と協働しながら、世田谷でどのような事業化が可能なのか、今後は具体的なプランを提案していきたいという。

代表を務める徳江倫明さん

recette ルセット

風力発電で焼くパンの価値を高める

最高級のパンを製造販売するrecette(IID 103号室)は、素材や製法にこだわるだけでなく、昨年7月からその製造に関わる動力にも目を向け、100%風力発電によるグリーン電力でまかなっている。実は、食品製造業界は製造業の中で占めるエネルギー消費は一番大きいが、コスト意識も高いためグリーン電力導入はほとんど進んでいない分野。その中でrecetteが取り組んでいるのは、食品製造業界が自然エネルギーに取り組むきっかけづくりに少しでも寄与できればという考えとともに、「見えないものに価値を見出していただける方が多い世田谷区で、グリーン電力を取り入れることを付加価値と感じてくれる土壌があるから」だとスタッフの佐藤さん。“風で焼くパン”をぜひ一度味わって欲しい。
http://www.recette.co.jp

グリーン電力証書

世田谷区(自治体)

強いリーダーシップを持った区長が率先してエネルギーシフトを提言

世田谷区では、昨年夏に住宅街で再生可能エネルギーを生み出すために、多くの家で太陽光発電パネル導入を促進するプロジェクト「せたがやソーラーさんさん事業」を(株)世田谷サービス公社と実施(※2)。来年には三浦半島にある区所有の未使用地に年間約44万kw想定の太陽光発電所を開設する予定だ。また、交流のある全国地方自治体とのネットワークを活かして、エネルギーの地域間連携の可能性も探っている。7月2日(火)には、自然エネルギー活用促進シンポジウム「自然エネルギー活用による地域づくり」を世田谷区主催で開催。自然エネルギー先進国であるデンマークからロラン島(※3)の市議会議員を招いた講演のほか、世田谷区と相互協力協定を結ぶ群馬県川場村のバイオマス発電と小水力発電の取組みが紹介され、会場を訪れた多くの区民が熱心に耳を傾けた。

 

シンポジウムで世田谷区の取り組みを紹介する保坂区長(左)とロラン島市議会議員のレオ・クリステンセン氏(右)

「地産地消への取組みに参加することは、電力を生み出すことはもちろん、省エネルギーへの意識が格段に高まることにつながります」と話すのは、世田谷区役所環境総合対策室副参事(エネルギー推進担当)の竹内明彦さん。「都市生活を営む住民が無理なく再生可能エネルギーを活用できるような“世田谷モデル”の確立を目指していきます」。

※2 今年度は対象を戸建住宅に加えに集合住宅や事業用建物へも拡大。受付期間は10月31日(木)まで。詳細はwebサイトを参照。http://www.setagaya.co.jp/yanergy/

※3 ロラン島は、デンマークの首都コペンハーゲンの南150kmにある島。沖縄本島ほどの広さの平地の島で、人口は約65,000人。主要産業は、農業と酪農、自然エネルギー発電で、電力のすべてを風力発電などの自然エネルギーで発電する。年間の発電量は島の消費量の5倍、約2,500GW(ギガワット)に上る。

 
世田谷区からはじめよう

みんな電力の大石さんは、「まだまだ規制の多いエネルギー問題に関して、区と民間企業、市民が一緒になって建設的に議論されているところが、他の自治体にはない世田谷区の特徴」と指摘する。「区長の強いリーダーシップもあり、世田谷区発ということでいろんな試みが注目もされ、情報を集まってくるようになっています。世田谷区をエネルギー関係のベンチャー企業が集まるグリーンバレーにしたいですね」。エネルギーの地産地消へ向け、一人ひとりが行動を起こして参加する意識をもちたい。