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草彅洋平「世田谷酒日記」

第十九酒 東松原 三木松

東松原に三木松というスバラシイ飲み屋があるというウワサを聞いていたものの、なかなか行く機会がなく、いつか行ってやろうと思っていたら、人気番組「吉田類の酒場放浪記 BS-TBS」に取り上げられているのを観て、その決断が遅すぎたことを思い知らされた。こんなに良い感じの大衆酒場だったとは!! 

テレビに出たからには流行ってしまうに違いない。

行こうと思っているのと行って知っているのでは千里の距離がある。何事も即決で行かねばダメである。というわけでタクシーに飛び乗り、すぐに飲みに行ってみた。

三木松は飲み屋としての面構えが非常に良い。べたり店頭に貼られた「獺祭」の文字。戸をあけるとカウンターと小上がりが視界に飛び込み、主人が「いらっしゃい」と挨拶してくれる。さぞ満席だろうと思ったら常連さんが一人いるだけで全然いないのだから拍子抜けしてしまう。テレビの潮流など関係ない、俗世と離れた飲み屋の雰囲気がまたなんとも言えず居心地が良い。

関西風ダシおでんと串焼きを頼んでビールを飲んでいると、主人が「いやあ、先日ブータンの王様が来てくれてね」と話しかけられた。「え!? あの有名なブータンの王様ですか!?お忍びですか?」と聞き返すと、隣の常連さんが「あの……、この親父の与太話に付き合わなくていいですからね……」と真顔で教えてくれた。

どうもこの主人、初見できた客をだますのが好きらしい。店内にダライ・ラマのポスターが貼ってあるから「これも伏線ですかね?」と尋ねると、これは本当に一度ダライ・ラマにお会いしたことがあるとか。なんとも飄々とした食えないじいさんである。

おでんははまぐり(150円)ときくらげ(130円)など変わったものもあり、特にさといも(150円)が美味かった。夏だろうが冷たいビールにおでんは美味い。ホワイトボードに書かれた一品料理もなかなか気が利いている。焼酎も日本酒もかなりの品揃えで大変安い。常連さんと親爺さんのツッコミとボケの楽しいトークを聞きながら飲んでいたら大いに酔っぱらってしまった。

ウソか本当かはどうでもいいが、ここがスバラシイ飲み屋というのだけは本当だ。


三木松(みきまつ)
世田谷区松原5-3-10
TEL:03-3325-0954
営業時間:19:00頃~23:30 木曜定休

 
草彅洋平(くさなぎ・ようへい)
1976年東京生まれ。(株)東京ピストル代表取締役として、プランナー、編集、執筆、ディレクションなど幅広い業務をこなす。編著に『作家と温泉』。東京ピストルでてがけた日本近代文学館内の文学カフェ「BUNDAN COFFEE& BEER」も話題に。
http://www.tokyopistol.com/