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西谷真理子「女子の強気」

第19回 川尾朋子さん(書家)
「呼応」というアクションペインティングに挑む書家。

文 西谷真理子(編集者・元high fashion ONLINE チーフエディター)

 

ライブパフォーマンス中の川尾さん

 
 
ファッション周辺のクリエーターを紹介してきたこの連載だが、今回は、なんと書家を取り上げる。NHKで放映中の大河ドラマ「八重の桜」を見ている人なら、6月に放映されたオープニング映像に躍動感のある墨の飛沫が登場したことを覚えているかもしれない。墨の筆跡と飛沫が舞い散る桜の花びらと交差するのだが、あの作品を制作したのが川尾朋子さんだ。あれは文字ではなく「呼応」というシリーズの一つ。書を学ぶ人は臨書と呼ばれる古典の模写というのを必ずやらなければならないが、修行僧のように来る日も来る日も文字を書き写しているうちに、書家の筆が空中でどう動いたのかまでを想像して書かないと模写はできないと思い至ったのがきっかけで、空中で舞う筆の動きを可視化した作品を発案し、「呼応」と名付けた。墨汁をたっぷり含ませた極太の筆は、点から発し、次の点=着地点に行き着くまでに宙を舞い、墨汁は飛ぶ。このしずくを通して筆の舞を感じるというのが、「呼応」の鑑賞法なのだろう。出来上がった作品は、1950年代のアメリカのアーティスト、ジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングを思わせる。ポロックは、製作中の自身の姿にはあまり頓着しなかったが、川尾さんは、これは一つのパフォーマンスだと認識している。そしてパフォーマンスの時に着る衣装についての考えがおもしろい。「動きが激しいので動きやすいこと、背が小さいので、それを感じさせないデザインであること。そしてちょっとセクシーで、キラキラしていてほしい」。セクシーという意外な言葉が飛び出した。「書(呼応も含めて)を書くことは、身体運動ですから。いつもは見せない肌が、激しい動きの中でちょっとだけ見えるように注文して作ってもらったりすることもあります」。「男性の書家が大きい作品を書く時の大胆な動きはカッコいいですよね。でも女子はそうはいきません。しなやかだけど強い線が書けるということを、体の動きだけでなく、着る服を通じても感じてもらえたら」。京都のブランド「NINP(ニンプ)」にオリジナルを別注しているが、迷った時には20年近く前に購入したコムデギャルソンの黒いロング丈のワンピースを着るのだそうだ。「大学生の時に思い切って買ったものです。墨が飛んでも気になりませんし(笑)。でも、あえて白い服を着ることもあります」。

 

個展「呼呼応応」での作品展示

 

一人で授業をボイコットしたこともあるお転婆な小学生時代、病気がちで半分くらいしか学校に行けなかった中高生時代――川尾さんの心の起伏に寄り添ってきたのが書だ。「書くことは、自分に戻る時間なのです」という。その自分らしさを演出することに服が一役買っているとすると、書くという行為と服の呼応もまた展開していきそうで興味深い。書くことに集中するのは、人里離れた仕事場で、そして住まいは、町中の雑踏をあえて選び、行き交うお姉さんたちを観察するのが楽しみというこの人の二面性が、さらに骨太な作品を生んでいくに違いない。
 
 
 
川尾朋子(かわお・ともこ)
1977年兵庫県生まれ。同志社女子大学卒。6歳より書を学び、国内外で多数受賞。2004年より祥洲氏に師事し、書の奥深さに開眼する。古典に向き合う日々の中で、代表作である「呼応」シリーズが生まれ、展覧会の他、ライブパフォーマンスやワークショップという形でも発表。
その他「生活の中にある書」として、文字や墨表現がさまざまなメディア、シーンに起用されている。6月の1ヶ月間、NHK大河ドラマ「八重の桜」のオープニング映像に呼応シリーズが登場した。京都在住。
http://kawaotomoko.com/