草彅洋平「世田谷酒日記」

第一酒 乾杯 下北沢 八峰(やつみね)

夏に僕がもっとも利用頻度が高くなる店。それが下北沢の餃子の王将側の路地に入ったところにある下北沢の「八峰」だ。

赤い提灯が出ていたらすぐに飛び込むといい。カウンターに地元のおじさんたちが並び、テーブルにはシブイもの好きの分かっている若者たちがお酒を飲んでガヤガヤしているのが一目見て、とても刺激的に思えるはずだ。

なぜ僕が夏をオススメするのか? その理由として、まずはビールをファーストオーダーにして欲しい。巷で流行っているアサヒビールのエクストラコールドという氷点下のスーパードライ(普通のものよりやや値段が高い、スペシャル感のあるビール)なんて目じゃないほどに冷えたカチンカチンのビールがすぐにテーブルに運ばれてくる。手がくっつく、唇が凍りつく、氷が浮いているほど冷え冷えのジョッキを持ち上げて「さあ、乾杯!」というのがこのお店の定石なのだ。

いつも僕が頼むのは「ジャーマンポテト」(280円)だ。ジャーマンポテトをこのお店ではじめて食べたときの衝撃は忘れない。一般的なジャーマンポテトを想像していると平手打ちを食らうような、湯掻かれた千切りのじゃがいも、ひょろりとした小さなベーコンが混ざっているシンプルな料理だからだ。ついつい惹かれる素朴さと意外性、そして安くて美味い。いつか家で作ってみようと思ってしまうほど、お手軽な一品だ。

八峰は焼き鳥がメインのため、「ピーマンつくね」「にんにくひなどり」「にんにく皮」などがビールに良くあう。ちなみにこのお店の素晴らしさは「選択」にある。例えば「つくね」を注文すると「ゆず入りとニラ入りどちらにします?」と店員が聞き、今度は「タレか、塩か?」と聞いてくれる。ジャーマンポテトなら「チーズ」か「のり」か、といった具合だ。選ぶことは楽しいことだ。最初はビール。次はベロベロに酔っ払う濃い目のカルピスサワーにシフト。ちょっとした選択で飲むことはどんどん楽しくなるのだ。

さて、夏をオススメする僕がなぜ冬にこのお店を紹介するのか? 答えはアツアツの「けんちん汁」が肌寒い季節の〆にぴったりだからなのだ。

八峰(やつみね)  住所:東京都世田谷区代沢5-33-3 下北沢駅から280m

草彅洋平(くさなぎ・ようへい) 1976年東京生まれ。(株)東京ピストル代表取締役として、プランナー、編集、執筆、ディレクションなど幅広い業務をこなす。編著に『作家と温泉』。
http://www.tokyopistol.com/