草彅洋平「世田谷酒日記」

第二酒 松陰神社前 まつもと

以前から気にはなってはいるものの、とにかく入りにくい雰囲気の店がある。店が狭く、常に地元客ばかりで混み合っており、入ると店内のものがジロリと一瞥するようなお店が概ねそうだ(特に店に独自ルール、例えばオーダーは最初の1回だけ、などがあると、さらにアウェイ感がつのる)。果たして僕が店のなかに入って良いのだろうか? 通りすがりに、ふとした疑念が浮かんだときから、すでにあなたはそのお店に魅せられているのだが、なかなか勇気というものは出てこない。入るのにはテンションか運がいるからだ。

世田谷線松陰神社前駅からもうちょっと歩いた世田谷通り沿いにある「まつもと」がそうだ。ここは近所の人以外絶対に来ないような、気配を消したお店である。近くには「一心」という、一見チェーン風の店構えに関わらず、チェーンでは作れない非常に優れたラーメンを作る深夜にナイスなお店があるのだが、明るい看板の一心と比べるとまつもとはまったく目立たない(しかし震災以降、自慢の看板に電気を灯していない一心。エラいぞ!)。それも手伝って、よっぽど勇気がないと、まつもとに入るモチベーションがちっとも上がらない。さらにせっかくがんばって中に入っても、大抵満席だったりするから難易度が異様に高くなる。だが、この高いハードルを飛び越えれば、世田谷で格安の値段でヘベレケになることができると考えれば、是非とも飛び越えたいところだ。

僕はこのお店のご主人(想像するに松本さん)を、顔が似ていることから「世田谷の道場六三郎」と勝手に呼んでいる。ご主人の作る、茄子の揚げ浸し、肉じゃがなどを中心とするカウンターにずらり並んだ和食の料理はかなり美味い。そして驚くほど会計が安いのだ。まさに、いつまでも続けて欲しい地元住民のオアシスといえるお店である。

オススメするメニューは「カリーライス」。ごろりとしたジャガイモと人参に、ソースの味がする懐かしいルーというのは、いまでは出すお店が少ないように思っていただけに嬉しいし、ボリュームも申し分ない。なにより、カレーでなく、カリーというのが良い。深夜ボロボロで仕事から帰った日は、緑茶ハイとカリーライスで自分に乾杯してあげるのだ。

住所:東京都世田谷区世田谷4-4-3 TEL:03-3426-8955 営業時間:18:00~翌3:00
定休日:毎週火曜日、第3火曜日は翌水曜日も休業(連休になります)

草彅洋平(くさなぎ・ようへい) 1976年東京生まれ。(株)東京ピストル代表取締役として、プランナー、編集、執筆、ディレクションなど幅広い業務をこなす。編著に『作家と温泉』。
http://www.tokyopistol.com/