今月の特集

今月の「世田谷」
D & D E P A R T M E N T P R O J E C T の ナガオカケンメイさんに会いに行く

世田谷区奥沢にあるD&DEPARTMENT PROJECTは、ロングライフデザインという、流行や時代に左右されずに長く使いつづけられる普遍的なデザインの家具や家電、生活雑貨などを扱うセレクトストア。東急大井町線の九品仏を最寄り駅とする住宅街にオープンして11年、世田谷という地域との関わりについて、代表のナガオカケンメイさんにお話をうかがいました。
取材・文 小林英治 写真 橋本裕貴

 

デザインとコンセプト重視で立ち上げたら現実にぶち当たった

―― 2000年にD&DEPARTMENT PROJECT(以下D&D)が世田谷にお店をオープンしてから10年以上が経ちましたが、特に世田谷という地域との関わりについてお話を聞きたいと思ってやって来ました。

実は、「世田谷」ということを意識することはほとんどないんですよ。僕がここにお店をつくった時は、完全に「デザイン」に目が向いていました。グラフィックデザイナーとして、デザインのあり方、特にデザインをしっかり売る売り場がないという論点でこのお店をつくったんです。デザイナーってまずコンセプトを考えるんですね。だからここもコンセプト重視でスタートして、むしろ地域のことは最初は排除していました。

―― D&Dが提案する「ロングライフデザイン」は、流行に左右されずに長く使いつづけられる普遍的なデザインです。それは世田谷にお店を構えることとは特に関係なかったと?

そうですね。「東京」ということさえ意識していませんでしたから。でも実際にお店を開くと、そのコンセプトとはまったく関係がない近隣の方々とのつき合いや、地域と接することから生まれる現実がありました。例えば1階にカフェをつくったのも、コンセプトとスタイルから始めたんですけど、実際に来るお客さんはデザインのことに興味がなかったり、赤ちゃんが泣き叫んだり子供が走り回ったりと、必ずしもコンセプト通りにはいきませんでした。でもその段階を通り越していくと、だんだん近所の馴染みの喫茶店として地域に受け入れられていきます。そこで初めて、自分の立てたコンセプトと現実がジワーッと重なっていって、お店としての完成を迎えるんだと思います。

―― 今ではすっかり地域に馴染んでいるように見えますが、最初から目指してできたのではなかったんですね。

ご覧の通りこの建物は3階から上は普通の分譲マンションですし、僕らが来る前からずっと住んでいる方もたくさんいました。ですから最初はむしろ反対運動が起きそうな勢いで、ガラクタ屋と呼ばれて悲しい思いもたくさんしました。最近では「地域性」そのものをコンセプトとして謳っているお店や施設もありますが、僕は逆のトンネルからただデザインとしてやって、気がついたら地域性みたいなこととぶつかった。だからこの2つを最初から重ねられて、デザイン的なコンセプトと地域に根づいたことをやるのが一番カッコイイと今は思ってますね。

日本全体のものづくりに目が向いた先にそれぞれの地域があった

―― 2007年の札幌店のオープンを皮切りに、全国各地にD&DをつくっていくNIPPON PROJECTを展開しているのは、その取り組みの1つといっていいでしょうか。

D&Dに影響を受けてお店をやりたいという人たちが全国に現れて、それでルールを作って47都道府県で一個所ずつつくろうとやっているんですけど、これも最初はコンセプトありきなんです。だから僕が立てたD&Dというコンセプト通りに100%やってくださいと。もちろんそのコンセプトから考えた地域性みたいなものはあるんですけど、実際にやってもらうと、「あなたの言ってるようにはならない」とか、「こういう問題が起こった」とか、いろいろ思い通りにはいきません。そうして折衝しているうちに、現在では「この部分はコンセプト通りにやるけど、ここの部分はあなたのところで考えてください」という状態になっています。ここに行き着くまでに8年くらいかかりました。初めはデザインの売り場に目が向いていたものが、プロダクトデザインにいって、さらに日本のものづくりにまで拡がって、今ようやく地域に関心がいくようになりました。もしかしたら、やっと「世田谷」にも目を向ける準備ができたところなのかもしれません。

―― ここ10年で、お客さんのデザインへの意識も変化してきたと思いますか?

変わってきてますね。ここのお店は売り上げが下がらないんですよ。トレンドに沿ってやっていないというのが一番大きいんですけど、立地が悪いところに、平日で1日100人ぐらいのお客さんが意識を持ってわざわざ来てくれて、製造されて40年経ったものをカワイイと言って買っていく。そういうようなお店も全国に増えましたし、そういう意味では人々の眼はすごく肥えてきていて、それがだんだん自分の土地のものに目が向いていって、東京のデザインだけがデザインじゃないと気付き始めて、それぞれの地域で模索している状況だと思います。そこから本当にあるべきものを見つけたものだけが地元のカラーと一緒に定着していく、そういう状況に何年か後になっていくと考えると、その「地域らしさ」という点で、僕たちも「世田谷らしさ」みたいなものを勉強しなくちゃいけないのかなと思っています。

住宅地ならではの雰囲気

―― 立地の悪さというところも、逆に世田谷らしさなのかもしれません。

基本的に世田谷は住宅地ですよね。今言われて気がついたんですけど、例えば銀座のような商業地域ではなく、住宅地から発信される商業性みたいなもの、まだ言葉にしたことがないから分からないですけど、そういうのが好きなのかもしれません。コンセプトやデザインで立ち上げた自分たちの自己満足の世界観が、世田谷という土地で10年やってきて馴染んできた。これはたぶんこの地だからできていることだと思います。デザイナーとして人工的に発信するD&DEPARTMENTのブランドイメージと、ここに来て何かを感じて帰っていく人たちの印象とはまた別であって、例えば九品仏の駅で降りて商店街を通り抜けてここまで歩いてくることなんかも、そのイメージと重なってると思うんです。近くに学校があって、小さな商店街がある住宅地。そういう雰囲気をきっと我々もいただいているんでしょうね。それを「世田谷らしさ」と言葉にしたことはなかったけれど、今は、はっきりと「世田谷マインド」の会社といえると思います。

ナガオカケンメイ 

D&DEPARTMENT PROJECT代表。
1965年北海道生まれ。日本デザインセンターを経て、1997年ドローイングアンドマニュアルを設立。2 0 0 0 年、デザインとリサイクルを融合した「D&D E P A R T M E N TPROJECT」を開始。以後、「60VISION」、「NIPPON PROJECT」などを展開する。2003年度グッドデザイン賞川崎和男審査委員長特別賞を受賞。

 

D & D E P A R T M E N T P R O J E C T が取り組んでい
るプロジェクトの一部を紹介します。

● 60VISION(ロクマルビジョン)

1960年代に日本のメーカーが「世界に通用するスタンダードを」と情熱を込めて製品づくりをしていた時代のメイド・イン・ジャパンの歴史・文化・技術を掘り起こすと共に、その製品に込められた企業のものづくりの思いを伝えるプロジェクト。カリモク、アデリア、ノリタケなど現在まで12社が参加。

● NIPPON VISION

60VISIONの考え方である「原点を売り続けながら、自分たちらしさを見つめ直す」ことを、日本の地域産業、伝統工芸に応用し、より長く続く仕組みを作って行くプロジェクト。4月26日(木)にオープンする渋谷ヒカリエの8Fには、47都道府県の日本のクリエイションをテーマにしたミュージアム、ストア、食堂をオープン予定。

● NIPPON PROJECT

47都道府県に1個所ずつD&DEPARTMENTをつくっていくプロジェクト。その土地に根ざしている人とパートナーシップを組み、ロングライフデザインについて考察。地元のネットワークを生かした独自商品の発掘するなど、地域の魅力をデザインという視点を通して伝えている。

● GOOD DESIGN SHOP COMME desGARÇONS D&DEPARTMENT PROJECT

「強いクリエーションは永久。また、定番として長い支持を受けているものも、強いクリエーションである」とするコム デ ギャルソンの考えに賛同し、ロングライフデザインの更なる可能性を探求する場として展開するショップ。
東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE 2F tel: 03-3406-2323

● d design travel

季刊発行で毎号1都道府県を取り上げ、そのエリアのデザイントラベル情報を紹介する、日本をデザインの視点で旅するガイドブック。編集長ナガオカケンメイが実際に訪れて、観光、レストラン、カフェ、ショップ、宿、人という6つの分類をもとに、独自の基準で審査し、本音で紹介。

 

D&DEPARTMENT PROJECT

〒158-0083 東京都世田谷区奥沢8-3-2 tel: 03-5752-0120
http://www.d-department.com/
[営業時間・定休日]ショップ:12:00~20:00 ダイニング:月~木、日 11:30~23:00
/金土 11:30~24:00 定休日:水曜日
[アクセス]東急大井町線「九品仏」駅より 徒歩8分。東急大井町線「九品仏」駅(改札はひとつ)をでて右へ。商店街をまっすぐ進み、環状八号線のT字路につきあたったら右へ曲がり、5分ほど歩くと右手に田園マンションが見えます。その1Fと2Fです。1Fガラスばりのダイニングが目印。