今月の特集

今月の「学校」
フレームビルダー今野真一さんが教える「東京サイクルデザイン専門学校」開校

「日本初の自転車専門学校」ができたワケ日本で初めての、自転車好きのための自転車を学ぶための学校ができました。その名は「東京サイクルデザイン専門学校」。4月から開校するこの学校では、日本の競技用自転車業界の草分け的存在であるCHERUBIM(ケルビム)代表の今野真一さんが講師及びメインアドバイザーを務めています。「いま、日本で自転車づくりを学ぶこと」について、今野さんにお話を聞きました。
取材・文 藤村はるな

 

4月から、日本で初めての自転車専門学校である「東京サイクルデザイン専門学校」で教鞭をとられるそうですが、今野さんご自身がこの学校に関わることになったきっかけを教えてください。

最初に学校の話を相談されたのは2年ぐらい前なんです。「自転車の学校を作りたいのだけど、実際に教えることは可能なのか」という基本的なレベルから打診を受けました。なぜ、私が頼まれたのかというと、現在の自転車製造業界では、ケルビムのように一から十まで全部自前でやっているところはとても少ないからでしょうね。図面を引く人、フレームを作る人、溶接をする人などと、分業になっている部分がすごく多いんですよ。

自転車製造を学校で教えるということは、日本以外の国では盛んにおこなわれているのですか?

自転車先進国であるアメリカでは、すでに同じような専門学校は何校かあります。そもそも、日本と違ってアメリカには「ガレージでなんでも作ってしまおう!」というガレージ文化があるので、自転車のDI Yもごく普通のことなんです。フレームや部品も多種多様なものが市場に流通していますし、それを組み立てるバーナーや溶剤などの設備やキットも手に入りやすい。単純に人口が多いので業界の規模も大きいということもあります。

日本ではどのように自転車作りは継承されているのでしょうか?

基本的には製造メーカーで修行を積むというケースが多いんじゃないでしょうか。最近はそうやって修行した後に、独立するパターンが増えています。自転車の楽しみ方も多様化してきて、自転車を基盤とした生活スタイルの受容や、新たな文化的土壌も形成されつつある。そんな風潮を見て、「日本でも、いよいよ自転車のブームが本格的に到来するのかな」という気運は感じていました。

今野さん自身はどうやって「ものづくり」を学んだのでしょう?

私は先代である父から基本を学びました。それを自分なりに発展させながら、フレームの形や接合部分ひとつでも、「すでに完成された形や方法」と何も考えずに受け入れるのではなくて、「なぜこういう形になっているのか」「新しい素材や技術が使えるか」といったことを常に考えています。

カリキュラムでは、フレームビルディングはもちろん、デザインから販売、マーケティングまで、製造から販売に関わるプロセスすべてが含まれています。

ビルダーを目指す人もプロセス全体を知っておくことは大切だと思います。私も店ではオーダーメイドの製造だけでなく、父の代から続くいわゆる町の自転車屋として、接客や販売まですべてを行っています。学校で講座として自転車の作り方を教えるのは初めてですが、スタッフには毎日のように指導しているので、教えるということに抵抗はないですね。

学校の授業を通じて、特に生徒たちに学んでほしいと思うことは何ですか。

単に「自転車作りを学ぶ」というよりは、「ものづくりを学んでほしい」と思っています。自転車作りは、組み立てるだけなら基礎を学べば誰にでもできるものですが、本当の「作り」は他人に教わるものではなくて、自分で探していくものと私は思っています。逆にそのことを学べれば、最終的に働く業界が自転車じゃなくてもいいんですよ。例えば、革の応用技術に興味を持ったら革の業界にいってもいいし、溶接に興味を持って溶接専門になる人もいるかもしれない。学校で学んだやり方だけが正解ではありません。ひとつのモノの作り方には何通りものやり方がある。そういう本質的なことを、教えたいし、学んでほしいと思います。

今野真一(こんの・しんいち) 今野製作所/自転車ショップCHERUBIM代表。北アメリカで開催される世界最大の世界最大のハンドメイドバイシクルショー「North American Handmade Bicycle Show」などをはじめ、多数の世界的賞を受賞。日本のフレームビルダーの草分け的存在。4月から東京サイクルデザイン専門学校にて講師を勤める。

 

「日本初の自転車専門学校」ができたワケ

なぜ、いま「自転車」なのでしょうか? 学校の代表として、同校の講師である高橋政雄氏にもお話を聞いてみました。

ここ数年、日本における自転車のニーズは大きく変化してきています。そのつ目の理由は、昨年の大震災です。災害時、交通網が大パニックの最中、渋滞をかき分けて颯爽と走る自転車のシーンは記憶に新しいと思います。「『人力』のみで動かす事の出来る最速の乗り物」として、自転車はこれからの日本でより必要とされるものになるのではないでしょうか。二つ目には「ハンドメイド自転車のニーズ」が若者を中心に広がってきているという実感です。「エコロジー」や「ものを大切にすること」は、これからの世界共通のキーワードです。そうした視点から、環境にも優しく、愛着がわくハンドメイド自転車は、今後
の時代をリードするものになると思います。また、昨今では、こうした時代背景を受けてなのか、国や地域が道路の改善に着手し始めています。

今回、「日本初の学校」を作ることに対して最も留意したのは、自転車製造業界の方に「学校の価値」を感じてもらえるクオリティを保つことです。本校を卒業することで「業界で通用する人間」になるように、知識や技術だけでなく、敬語などのビジネスマナー、プレゼン方法や書類の書き方などのカリキュラムも準備しています。

また、今回、応募してくれた生徒さんたちは、年齢平均は23歳前後の男性が多いです。自転車修理などの仕事を経て入学される方もいますが、職務経験のない自転車が大好きな10代の方も目立ちますね。

自転車づくりは、「つくる楽しさ」と「伝える責任」です。自転車づくりは地味な作業が多く、危険も伴いますし正直大変です。9割くらいの時間が苦しい作業なのかも知れません。しかし、完成したときの喜びと乗ったときの感動は、他で味わう事の出来ない衝撃です。こだわりの意図や安全の証などをしっかりとカタチで伝える事に責任を持ってもらいたいと思っています。言葉を変えれば、それは「プライド」というものかもしれません。「決して、無責任なものづくりはしてはいけない」という基本概念を、生徒たちには教育していきたいと考えています。

東京サイクルデザイン専門学校
住所:東京都渋谷区神宮前 5-29-2
電話:0120-099-422