西谷真理子「女子の強気」

第3回 有本ゆみこ(刺繍アーティスト)

文 西谷真理子(編集者・high fashion ONLINE チーフエディター)

女の子のあいまいな内側を刺繍で表現

有本ゆみこさんは、奈良出身で、京都の美術系の大学を卒業した。登場人物がすべて片思いの、美大を舞台にしたマンガ「ハチミツとクローバー」に、マンガ好きの美大生だった有本さんは自分を重ね合わせて(そういえば、花本はぐみと似ているような)、大学のファッション科の課題にクローバーを刺繍したコットンガーゼのスカートを提出したら、その作品が優秀賞を取り、それがきっかけで、刺繍に取り組むようになった。

その最新作が、今年2月から3月にかけて、原宿にあるセレクトショップ「Lamp harajuku」地下ギャラリーで展示された。タイトルは「あまい おんな」。会場の小さい部屋いっぱいに、等身大の女の子像の刺繍作品は展示されていた。刺繍を施したチュールの布の4隅を吊られているところは、まるで少女がハンモックに乗って寝ているようだ。少女はマンガの主人公のようなかわいい顔をしているが、ドレスや髪の微妙なグラデーションをパステルカラーの刺繍糸が埋め尽くし、頬や指先のほんのりとした赤みまでが細やかにリアルに表現されている。裏面にはわざと糸を数十センチ垂らしたまま残し、よく見ると、女の子の胸からお腹にかけては、なにも刺していない。そのために、そこにすっぽりと空洞があるように見える。かわいい女の子の、中心が空白とは…。そして壁面には、刺繍用の丸い木枠にチュールを張って、やはりマンガのような少女の顔を刺し、裏面は糸を垂らしたままのものが6点展示。スポットライトが作る影は、表のかわいい顔とは対照的な怖い顔なのだ――。表は砂糖菓子のようにスウィートで、ふわふわしていて、でもその奥には、別の世界が広がっていて、その異形は見る人が見れば感じられるという作品の作り方は新しい。新しい世代の出現を感じさせる作品だ。

2年前の初めての刺繍の個展には、「ハムから見たエベレスト」というシュールなタイトルが付いている。食卓の上のハムを見ているうちに、色のグラデーションに目が引きつけられ、それがやはりグラデーションゆえに好きだったオーロラへとつながり、そこからなぜかエベレストへ――。連想の広がりを言葉で集めて構想していく有本さんの方法は、いつも日常に着地しているようで、想像力の世界ではどこへだって行ってしまう女子ならではのもののような気がする。かわいいと言って男性が油断している間に、女子の心の中ではいろんな事件が起きているのだ。

「あまい おんな」は自宅のベッドに広げて、3ヶ月缶詰状態で制作した。3ヶ月間の共同生活の間、かけていた音楽はプリキュアのテーマソング。アニメソングだとテンションが上がるというあたりは、今時の女の子っぽい。次は子ども時代からの夢であるマンガにも挑戦したいと思っている。自費出版した『puddle』は猫と少女の甘くてビターなストーリーだ。

有本ゆみこ(ありもと・ゆみこ) 1986年奈良生まれ。美大を卒業後、2009年より活動開始。writtenafterwards 、keisuke kandaなどのファッションブランドとのコラボレーションという形で、刺繍を方法論とするアート作品を作り始める。2010年6月、初個展「ハムから見たエベレスト」を皮切りに、「感じる服・考える服」keisuke kanda展示スペース、シブカル祭美術部、会田誠「美術であろうとなかろうと」などに参加。2012年2月「あまい おんな」展を開く。かたわらマンガも描き、初めての作品集『puddle』を自費出版した。http://sina1986.com/