草彅洋平「世田谷酒日記」

第六酒 ONSEN(その1)

なんと、というか、ついに、というべきか、自ら酒場をオープンさせることになってしまった(特定の題材をテーマに連載をしながら、その題材のお店を構えてしまったライターはかつて過去に事例があるのか僕には分からないが、画期的なことではないだろうか?)。世田谷区の半蔵門線「三軒茶屋」駅から徒歩一分の三角州、雑然とした「三番街」という飲屋街に、だ。

もののはじまりは去年僕に失恋事件が起こり、やけっぱちになって酒を飲んでいたことからはじまる。6年付き合い、結婚目前の35歳で相手の家庭の事情で失恋というものは本格的にツライ。「結婚資金をすべて使い果たしてやる!」そんな自暴自棄な気持ちになっているときに「店でもやろうかな」と相談した相手がクリエイティブ業界のキーパーソン・サイトウアキコさんだったから、話が加速したのは必然。Web制作の世界では名の知られた会社であるイメージソース/ノングリッドの代表である小池博史さんがお友だちと経営している、業界では知られた三軒茶屋のお店「ポケット」が閉店するので場所を借りる人を探していると教えてくれたのだ。坪数はたったの3坪。一階の席数はたった7席しかないに関わらず、いつも大勢のお客さんが立ち飲みをしつつワイワイしているバー。酩酊していた僕は、これは自分にも手を出せそうな手頃な物件だと確信してしまったのだ。

すぐにサイトウさんを連れて伺うと、小池さんも「お客さんが近い人に譲りたかったのでクサナギくんならいいね!」と乗り気であった。そんなことからトントン拍子で新しいお店をオープンさせることが決まってしまった。いやはや、酔った行動というのは恐ろしい……。

とはいえ僕は飲食のズブの素人。飲食がどれくらい儲かるのか、コストがかかるのかもその時点で分かっていなかった。さらに仕事が多忙すぎるため、お店を開いたところでハンドリングできるわけもない。そんな僕だから、4月から契約が決まっていたものの、ずるずると時間が過ぎて行ったのは、ここに書くまでもないだろう。コンセプトの代名詞である店名が「NEETNIK」(tumblerサイトから)から「diss」(僕が人の悪口ばかり言っているので)になり、「ONSEN」へと変わるのは開店直前であった。(つづく)

ONSEN  

世田谷区三軒茶屋2-13-10 
TEL:080-3932-3390 
営業時間:20:00~5:00頃(貸し切りメインの営業です)

草彅洋平(くさなぎ・ようへい)
1976年東京生まれ。(株)東京ピストル代表取締役として、プランナー、編集、執筆、ディレクションなど幅広い業務をこなす。編著に『作家と温泉』。http://www.tokyopistol.com/