西谷真理子「女子の強気」

第6回 井出恭子さん(YAECA デザイナー、企画、広報)

文 西谷真理子(編集者・high fashion ONLINE チーフエディター)

YAECA 2012SSのカタログより
 

日常着の静かな冒険

10年前に、シャツとチノパン数型だけの日常着で構成される小さなメンズブランドとしてスタートしたYAECAは、漢字で書くと、「八重日」。少し縁起のよさそうな、そしてファッションブランドらしくない名前を付けた。当時は、日常着とファッションとは別物、とする見方が支配的だったけれど、そのシャツやパンツ1点1点の素材やデザイン細部のこだわりが、わかる人にはわかって,少しずつ口コミで存在が知られるようになり、それに応じてラインナップも充実し,3年後には女物も始めるようになった。女物を始めるにあたって、それまで、広報を担当していた井出恭子さんは、初めてデザインという仕事に参加することに。もともとシンプルな日常着の世界が好きだった井出さんが担当したのは、メンズをウィメンズに変換するにあたってのゆとりや着心地を考慮したパターンの修正やデザインの変更だった。そこで、いかにもの女性らしさを付け加えたり、不要なデザインの変更をしなかったところに、井出さんの静かな「強気」、女性らしい潔さを感じる。あくまでも、ブランドのテーマや世界観を構築するのは、ブランドの創立者でパートナーでもある服部哲弘さんで、自分はその1スタッフ、クリエーターではないと謙遜するが、井出さんの存在があったから、YAECAは女性にも強く支持される独特なブランドに成長していったのだと思う。

5月12日に中目黒にオープンした2番目の店舗、YAECA APARTMENT STOREを訪ねると、レトロモダンなマンションの一室を改造した光が差し込む白い空間の中、吟味された器やアクセサリーや本や食品とともに、YAECAの服が控えめにコーナーに集められている。白、グレー、ネイビーを中心としたさっぱりとクリーンな服は、普通だけど、ありふれていない。Tシャツ一枚取っても、素材が少し違う。息の合ったメンズとウィメンズが垣根もなく並んでいる。

「うちの服は,強いデザインで主張する服ではなく、着ている人が際立つ服だと思います。脇役的な服ですが,どう選ぶかでその人のセンスが見えてきます。そのシンプルなベースをうちが提供できたらいいなと思っているのです」と静かに語る井出恭子さんだが、最近、人々が、いいシャツを買うことに小さなぜいたくを見つけ始めたことを実感していると言う。グレーの白衣のような形のコートドレスをさらっと着たご本人もYAECAの空気をまとっているようであった。

「ドレスアップした時の高揚感を日常着にも」というYAECAのコンセプトーーおしゃれの仕方も、ファッションの意味も、少しずつ変わっていくのかもしれない。

井出恭子(いで・きょうこ)
1977年静岡県生まれ。2003S/SよりYAECAをスタート。2006A/WよりWOMEN’Sのスタートをきっかけにデザイナーとして参加。2007年恵比寿にYAECA直営店をオープン。今年5月に新たに2号店YAECA APARTMENT STOREを中目黒にオープンした。www.yaeca.com