今月の特集

今月の「学校」
ソーシャルラーニングって何?

取材・文 小林英治、藤村はるな

ソーシャルメディアを活用した新しい学び

最近、「ソーシャルラーニング」と呼ばれる新しい学習形態が注目されています。ふつう「勉強」や「学習」と言うと、専門的な知識を持った先生や講師が一定の場所で行う授業やセミナーを受けたり、本を読んだり一人で机に向かう姿をイメージするかもしれません。しかし一方でわたしたちは、社会の一員として日常生活をしていくなかでも、多くの知識や知恵などを学んでいます。そのような後者の「学び」を「ソーシャルラーニング」と呼びます。新しい言葉のようですが、実は1950年代から社会構成主義の立場から提唱されていたもの(このあたりの経緯は先月号で特集した「ワークショップ」と似ています)。しかし近年、twitterやFacebookなどのSNSや、ブログ、YouTube、投稿型の掲示板などのソーシャルメディアが発達したことにより、それらをツールとして活用した人とのつながりや交流から生まれる学びを指す言葉として、再定義されるようになってきました。インターネットのおかげで、知識や情報をシェアした「集合知」にアクセスしたり、趣味や関心からつながるネットワークを構築することがぐっと簡単になり、肩書きや地位に拠らず、あらゆる人から学びを受け、また教え合うことができるようになったというわけです。

トニー・ビンガム、マーシャ・コナー著『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP社)によれば、アメリカのミネソタ州にある総合病院メイヨー・クリニックでは、2011年からヘルスケアのテーマに特化した独自のSNSをオープンさせ、「疾患別の治療法や体験談の共有」を図ることで医療の質が向上しました。また、アメリカのC I Aは、米国に影響を与える動向やニュースを分析する出版物の発行を2006年に廃止し、「CAIワールド・インテリジェンス・レビュー(WIRe)」と呼ばれるサイトを立ち上げ、情報を一般公開。それによって以前に比べ情報へのアクセスが急増し、読者が情報をカスタマイズできることで、常に情報を最適化させるシステムを作り上げたといいます。どちらもセキュリティに気を遣う情報を扱う組織であるにもかかわらず、ソーシャルラーニングを積極的に取り組んで大きな成果を上げた例です。

自ら最適化するネットワークの質

「ソーシャルラーニング」に特化したサービスも、新たに生まれてきました。日本でいち早くソーシャルラーニングに注目したベンチャー企業(※)、キャスタリア株式会社が運営する「iUniv(アイユニブ)」は、国内外の著名大学を中心に無料で提供されている大学講義の動画コンテンツを収集し、視聴できる学習サービス。YouTubeを利用した動画が、現在7万本以上ストックされており、ユーザーはそのなかから自由に動画をセレクトして視聴するだけでなく「Fusen」(フセン)と呼ばれるコメント機能を使って、他のユーザーと成果を共有しながら学習することができます。また、「iUniv」をカスタマイズして、企業の社員教育などにも利用されています。

キャスタリア代表であり、前述の『「ソーシャルラーニング」入門』の翻訳も手がけた山脇智志氏は言います。「学びは2つの形に分類できます。ひとつは、『フォーマルラーニング』と呼ばれるもの。これは学校で学ぶ授業から、会社などで計画的に提供される社内研修や講習会など、いわゆる“公式な学習”のことですね。そして、もうひとつが、『インフォーマルラーニング』と呼ばれる学習です。これは、一言で言うと『学校では教えてくれない“非公式な学習”』のことで、自分で本を読んで独学で学んだことや、社会に出て人とやりとりする上で発見したり、学んだ知識や経験もこれに入ります。一般的に、就職や転職などをはじめ、社会で評価される材料になりやすいのは、前者の「フォーマルラーニング」の部分でしょう。反対に、特に学校や組織などの証明書や記録を持たない「インフォーマルラーニング」は、その人自身のスキルとしては評価されにくいものでした。でも、私自身のこれまでの人生を振り返ってみても、大学で学んだことよりも、社会に出て、仕事をしながら人から学んだことの方がはるかに多かったと思っています。つまり学ぶということは、自分のネットワークの質を最適化することなのです。だからこそ、私は、“学習”という言葉を、個人が組織の中で、あるいは組織を超えて互いに学び合うための環境として捉え直すべきだと提言しています。個人が互いに知を共有することによって組織が生まれ変わり、競争力を磨いていくことができるのです」

日常生活で使用することも多くなったソーシャルメディアを積極的に活用することで、従来のフォーマルラーニングとは違った様々な学びのきっかけを見出すことができそうです。

※IT調査会社である米ガートナーが2 0 1 1 年4月に発表したレポート『Cool Vendors in Human Capital Management(人的資本管理の注目ベンダー)』で、世界の「Cool Vendor(注目ベンダー)」5社中の1社として取り上げられた。http://www.castalia.co.jp/

 

ソーシャルメディアを用いたサービスいろいろ。

インターネット上にある大学などの講義動画/音声を使ってソーシャルに学習するサービスおよびプラットフォーム「iUniv」。自律学習者としてユーザーは講義コンテンツ( 動画・音声)を視聴しながら「Fusen™」を使って学習を他のユーザーと共有しながら学ぶことができる。http://iuniv.tv/

 


キャスタリア(株)が開発したウィキペディアの検索をスマートにするソーシャルネットワーキングアプリ「goocus(グーカス)」。「学んだ」、「ふせん」と呼ばれる機能で、ウィキペディアの記事をグーカスとFacebookの友達にシェアできる。 http://gooc.us/ja

 


「WEBに誕生した、学校の新しいカタチ」を掲げる「schoo(スクー)」は、様々なジャンルの講師がウェブ生中継で授業を開講。「1つのことを皆で考える」をコンセプトに、授業中のチャットやコメント機能を用いて、学ぶことを軸としたコミュニケーションを生み出します。http://schoo.jp/

 


生活のちょっとした知恵を集めたレシピサイトの「n a n a p i(ナナピ)」。料理や洗濯などの家事から、ビジネス、恋愛など幅広いジャンルがまとめられたレシピ記事は、読者が投稿したものがメインとなっている。http://nanapi.jp/

 


「togetter(トゥギャッター)」は、リアルタイムで流れていくツイッターの多くのつぶやきから、ある特定の話題を抽出して保存し共有するサービス。ツイッターというコミュニケーションプラットフォームから適切につぶやきの抽出と編集ができ、時系列に閲覧できる。http://togetter.com/

 


マンガ情報特化型の「MANGAful Days(マンガフルデイズ)」は、自分の読んだマンガのログを残せるソーシャルメディア。facebookと完全連動し、読んでいるマンガについての情報をシェアできたり、自分の好きなマンガのランキングを友達と共有することができる。http://mangafuldays.jp/

 

Appleサポートコミュニティ


Apple社のウェブサイト上にある「Appleサポートコミュニティ」は、世界中の Apple 製品ユーザの仲間とトラブル解決方法を共有できるサービス。Apple社製品にまつわるQ&Aが寄せられたユーザーによる集合知の好例。https://discussionsjapan.apple.com/index.jspa

 

ゲーム攻略@WIKI


人気のゲームなどが発売されると、ユーザーがその攻略情報を書き込むゲームごとのウィキペディアが、無料のホームページレンタルサービス「@WIKI(アットウィキ)」などを利用して立てられる。(例)モンスターハンターポータブル3rdの@wiki http://www42.atwiki.jp/mhp3/