西谷真理子「女子の強気」

第7回 大谷有紀(Ki Noeデザイナー、資生堂宣伝制作部勤務)
デザインという大きなものに向かって

文 西谷真理子(編集者・high fashion ONLINE チーフエディター)

大谷有紀さんに初めて会ったのは、彼女が手がける洋服のブランド「Ki Noe(キノエ)」の2回目の展示会でのこと。震災直後のことだった。タイトルは「そこは遠くから見ていたらきっとわからないだろう。とほうもなく大きな、風景」というおよそコレクションのタイトルらしからぬものだ。初めてのコレクション「見えないものまで見ようとしてじっと目を凝らしてみる」(2010年秋)をチェンジファッションのサイト(changefashion.net)で見て、不思議な印象を持ったのがきっかけであった。展示される服の数はとても少ないのだけれど、グラフィカルなデザインや色彩や素材使いに確とした美意識が感じられ、その上、オリジナルのイメージ写真が美しい。見ると、モデルはデザイナー自身だ。その時に、大谷さんが、資生堂宣伝制作部に在籍するデザイナーで、「2e」というデザインユニットを起こし、紙を使ったステーショナリーやラッピングの製品も制作していることを知った。

続く3回目の「ねむる。夢はいくつもみたけれど 忘れた。」では、手描きの抽象画をブルーでプリントした白のドレスやブラウスを中心としたコレクションを発表。テキスタイルプリントの原画はすべて大谷さんの手になるものだ。

ひとつひとつは小さなコレクションだが、Ki Noeには、4回分が集まったらショーをすることという計画がある。シーズンレス、トレンド無視で作ってきているので可能だと考えているが、なにぶんにも、資生堂勤務のかたわらの仕事なので、予定通りに進まない。実は4回目のコレクションも、本業の都合でいまだに開催できていないのである。と、ファッションブランドとしては、なんとも心細い運営のように見えるのだが、大谷さんの活動全体を見渡すと、また違うものが見えてくる。

絵が好きで東京藝大に進んだ大谷さんは、デザインを専攻し、そこで抽象画を描き始める。絵を描く行為と、デザインという社会性を持った行為とは、二者択一のものではなく、両方があいまって、さらに遠くまで行ける――藝大の大学院に進み、その後、資生堂に就職する中で、大谷さんはこういう哲学を身につけ、実践している。資生堂で、「ボンボン フロマージュ」を始めとする資生堂パーラー関連のデザインとディレクションを手がけ、時にザ・ギンザのバイヤーもこなし、フリーエージェントのような活動も開始。さらに現在、抽象画を使ったユニークな二人展が開催中である。

一つずつ、普通じゃないことを積み重ねて、いつか「おおたにゆき」がはっきり像を結ぶ。そのパズルを完成させる作業こそが、大谷さんにとっての「デザイン」の意味なのかもしれない。

池田陽美×大谷有紀「わたしたちにだって言い分がある」
2012年7月31日(火)~8月12日(日)
時間:12時~20時(最終日は19時)
月曜休 会場:limArt(リムアート)
http://www.limart.net/

大谷有紀(おおたに・ゆき)
1981年福井県生まれ。東京藝術大学にてデザインを学び、在学中よりデザインユニット「2e」(ニイー)として活動し、オリジナルのペーパーグッズやステーショナリーを制作、販売。2010年に服のブランドKi Noeをスタートする。またイラストレーターとしても活躍中。著書に『ペーパー・シンドローム』(ピエ・ブックス)。現在、資生堂宣伝制作部に在籍。www.2e-prodotti.com/