今月の特集

今月の「学校」
蓮沼執太さんがつくる 新しいチャイム♪

文 小林英治  写真(ポートレイト) 橋本裕貴

I I D 世田谷ものづくり学校は、廃校になった池尻中学校の建物を利用しています。リノベーションされた各オフィスには元の教室の名残りを留めていたり、入り口の下駄箱は入居者のポストになったり、階段の踊り場の手洗場はそのまま利用したりしています。各部屋にある放送用のスピーカーもそのひとつで、現在はイベント時や緊急時のお知らせに利用していますが、ここからI I D に相応しいチャイムが流せないだろうか?と考え、音楽家の蓮沼執太さんに制作を依頼してみました。

自分ではなく相手のことを考えて知恵を出す

―― 蓮沼さんは、自身の作品以外に、特定の場所やシチュエーションで流れる音楽を依頼されることも多いと思うのですが。

蓮沼 皆さん、僕だったら何かやってくれるんじゃないかと思ってくださってオファーいただいているようなんですね。ロックバンドみたいに週に何度もライブしてるミュージシャンじゃないというのもあるかもしれません。そういう期待には応えたいと思っていて、それが結果的に通常の音楽のあり方とはちょっと違うような視点も生まれて、何かが形になる。そういう連続ですね。

―― 普段の作品制作と作曲する上での違いはありますか?

蓮沼 実際につくるメソッドというのは、普段作曲するものの延長だと思うんですけど、自分がどうしたいというよりも、相手のことを考えて知恵を出した結果こうなった、ということは言えると思います。そういう仕事たちが僕の作品の中でちょっと変わった存在になってるというか、アウトプットの仕方、見え方が変わって見えるんだと思います。

―― そういうお仕事も積極的に引き受けられるのは、やはり何か面
白さを見出すところがあるんでしょうか。

蓮沼 そうですね。例えば、このあいだ「スクー」(※1)の集中講義で校歌をつくるというワークショップをやったんですけど、校歌を調べてみると、僕らが学生の時と今の校歌って少しあり方が変わっていて、僕らの頃は甲子園で聞く有名校でもなければ自分の学校のものしか知らなかったじゃないですか。でも今はネットで調べるとHPにたくさん挙がってるんですよ。「校歌 mp3」と検索するといろんな校歌が聴けます。そうすると「校歌」というものの再解釈が可能になってくるんですね。それとつくってみたら、校歌ってその学校の風土とか環境とか、教育理念が歌詞にちゃんと入っていることが重要で、それらしいメロディはあっても、実は曲自体は二の次だということがわかったりもしました。

働く大人が聞くのに相応しいチャイムとは?

―― なるほど。で今回お願いしたいのは「チャイム」なんです。ちょっと調べてみると、学校で鳴らすチャイムの歴史って興味深くて、特定のメロディが定められているものではないんですね(別枠コラム参照)。元は中学校だったIIDにはいろいろなクリエイターたちが入居していますが、今は特にチャイムは鳴らしてないんです。実際に自動的に定時で鳴らすには現状では設備上の問題があるのですが、蓮沼さんに新しいチャイムをつくってもらったら面白いなと思いまして。

蓮沼 最初にお話をいただいた時に、学校で子どもが聞くチャイムと、働く大人が聞くチャイムは違うんじゃないかな?と思いました。チャイムを記号としてとらえると、大人が普段は聞くのは電車の発車ベルとか信号機の音くらいですよね。それで、もし一定の時間に確実に再生されるっていうことが毎日起こるとするならば、いわゆる学校のチャイムとは全然違ったものがあっていいんじゃないかと。それから、「こんなチャイムがあったらいい」という大人の意見を逆に集めて、それを落とし込めたら面白そうだなと思いました。一定のルールである種の受け身として聞くわけだから、いわゆるチャイムの感覚は残しつつ、聞いても嫌にならないような音やメロディを探してみたいです。

―― それは何種類もということもありえますか?

蓮沼 そうです、チャイム自体は短いですからね。「トントン、タタタタン」ってドラムのリズムだけとか、リズムは一定で音色が違うとか。びっくりしない程度で、決まりはないんだから可能性は無限ですよね。

―― 今普通に思い浮かべる学校のチャイムも習慣で染みついたものですからね。

蓮沼 そう、こういうのって条件反射がはたらくじゃないですか。確実に反復によって刷り込まれてくような反応が起きる。最初は難しくても、だんだんとそういうことが皆さんの活動の中に生まれていくものができると面白いし、そう考えると新しいチャイムをつくるのはやりがいはありますよね。

―― 世田谷と隠岐の島(※2)と2バージョンつくりたいとおっしゃってくださったのですが、それは場所の違いで違うものができると?

蓮沼 いや、それもまだ分からないですね(笑)。場所よりも建物が持つ力とか窓から見える風景とも関係するだろうし、実際チャイムを使う人に想像してもらって、それを受けとってつくったら面白いんじゃないかと。「完全に僕が考えたチャイムです」っていうものよりも、普段いらっしゃる大人のみなさんが聞くものっていうニュアンスを大切にしたいので、いろいろな意見が交ざった雑味があるものができるといいんじゃないかと思っています。

―― 10月中にIIDのサイトで発表できるようにしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!

学校のチャイムの由来

チャイムは大きく分類すると2つの用途に分かれていて、1つはドアやレストランのテーブルなどにある、離れた人をよび出すもの。もうひとつが、今回依頼した学校や会社や工場などで使用されているもので、始業や就業、特定の時刻を広く知らせるものだ。時刻を知らせるためのチャイムは、一般には時
計と連動した再生装置がついた機械で、技術的には1950年代に実用化された。それ以前は、チャイムではなく単にベルの音か、サイレン音を手動で鳴らしていたらしい。日本では、終戦後しばらくは空襲を知らせるベルと同じ音を鳴らしていたが、一部の子どもたちから空襲を思い出すと嫌がられていた。そこで1954年に発明家の石本邦雄氏によって、現在のチャイムが鳴るミュージックチャイムが開発された。そこに組み込まれた「キーンコーンカーンコーン…♪」というメロディが、ロンドンのビッグ・ベンが奏でる「ウェストミンスターの鐘」で、現在まで広く普及するチャイムとなった。この音を採用した理由は、石本氏が当時よく聞いていたBBCラジオ放送で流れていたためだったと言われている。70年代後半から電子チャイムが普及し複雑なメロディが鳴らせるようになり、現在使用される装置には数種類のチャイムが登録されているが、慣例により多くの学校では「ウェストミンスターの鐘」が使用されている。

※1:「WEBに誕生した新しい学校のカタチ」。ソーシャルメディアを利用した新しい学びのスタイルはIID PAPER 7月号でも紹介した。
※2:「OKI 隠岐の島ものづくり学校」。IID同様に、廃校になった小学校をリノベーションした施設で、2013年4月グランドオープン予定。


♪蓮沼さんがイメージして頭の中で鳴った「チャイム」を記譜したもの。ここからアンケートの結果(下記参照)も考慮して,どのような完成形になるのか?! ご期待ください。

I I D 入居者に聞きました。

蓮沼執太(はすぬま・しゅうた)
1983年東京都生まれ。音楽家。ラップトップ・ミュージックからバンド編成の「蓮沼執太チーム」、アンサンブル編成の「蓮沼執太フィル」まで多様なフォームを組織して国内外で音楽公演を行う。また、自ら企画・構成する音楽祭「ミュージック・トゥデイ」を開催する他、音楽的視点を持った美術作品、映画・ファッション・舞台・広告など多岐にわたるジャンルとのコラボレーションも多数制作。現在、2013年2月にアサヒ・アートスクエアにて開催する展覧会に向けたプロジェクト「蓮沼執太のスタディーズ」を定期的に実施中。最新作に4枚組CDアルバム『CCOO』(UNKNOWNMIX/HEADZ)。
http://www.shutahasunuma.com/

『CC OO』(UNKNOWNMIX/HEADZ)
ここ数年のプロジェクトで制作した音楽を収録した、 4枚組、4 0 曲、4 時間半のアルバム。新曲や自身のフリー・ダウンロード・プロジェクト、公開レコーディング・イヴェントでの楽曲の他、展覧会やパフォーマンス、映画、ファッション・ショー、広告など、依頼されて制作した楽曲も数多く収録。