草彅洋平「世田谷酒日記」

第十酒 松陰神社前 てっこん

日本酒が飲みたい季節になってきた。世田谷界隈で種類も豊富で良い日本酒を飲ませてくれるお店を探すとき、真っ先に名前が上がるのが三軒茶屋の「赤鬼」だろう。だが、僕からすると楽しく飲んで大体1万円以上飛ぶイメージなので敬遠してしまう。二番手はすっかり有名になってしまった池尻大橋「つくしのこ」だ。こちらも食べログ順位が上がり予約を取るのも大変になったので、簡単には行けない。そんなとき、僕は四谷「酒徒庵」か、武蔵小山の神店「穂のか」に行くのを常としていたのだが、ここ最近はそんな遠出もやめてしまって、ふらりと松蔭神社の「てっこん」にお邪魔してしまう。まずほとんどの人が知らないというのが僕の中でポイントが高い。自分だけが価値のある宝物の在り処を知っている気がして、ちょっと贅沢な気分になれるのだ。落ち着いた、雰囲気がとてもよい店内も素晴らしい。場末的な世田谷の飲み屋を紹介してきた本連載で、珍しく小奇麗なお店をご紹介することになるが、「気配」がよいというのは最上の褒め言葉だ。

入ったのは数年前、たまたまだ。正直どうしてこんな場所に店を構えたのだろうと最初見つけたときは思った。寂れた商店街の松蔭神社は、出店したお店が数カ月後には閉店してしまう魔のエリアである。そしてその一番奥まったシャッター街の路地にお店があるのだ。隣の美味しいドーナツ屋、すぐ近くの大人気パン屋「ブーランジェリー スドウ」に足繁く通う人でないと、存在に気づかないことも多いだろう。

お店に入って「てっこん」の実力の高さに驚かされた。日替わりの料理が黒板に書かれている。そのどれもが上品で、美味しい。値段も日本酒500円からと、日本酒専門店とは比べ物にならないくらい安い。

難点があるとすれば、店主一人のため、混雑時にオーダーが遅くなることと席数が少ないことぐらいか。だがそれがどうでもいいことに思えるのが店の実力という奴である。店内に高田渡が流れていたので「僕、高田渡が大好きなんですよ」と告げると、店主が「わたしも大好きでして、一度こちらに生前来ていただいたこともあったんです」という。それ以来、「てっこん」も大好きになった。

てっこん
世田谷区世田谷4-2-12 
TEL:03-5451-8678
営業時間:17:30~23:00 
定休日:火曜・第三月曜

草彅洋平(くさなぎ・ようへい)
1976年東京生まれ。(株)東京ピストル代表取締役として、プランナー、編集、執筆、ディレクションなど幅広い業務をこなす。編著に『作家と温泉』。
http://www.tokyopistol.com/