西谷真理子「女子の強気」

第10回 林香衣(futatsukukuri デザイナー)
女子のロリータコンプレックスって?

文 西谷真理子(編集者・high fashion ONLINE チーフエディター)

futatsukukuri 2012-13 年冬春より。
撮影:小浜晴美

「今、ちょっと注目しているブランドがあるんです」と言って、山口壮大くんが教えてくれたのが、「フタツククリ」である。彼は原宿の、いつも時代の先を見据えたセレクトをしているショップ“ミキリハッシン”のオーナーで、スタイリストやら渋谷パルコ内のショップ“ ぴゃるこ”のディレクターやらの肩書きを持っていていつも新しい動きを教えてくれる頼もしい友人だ。今年の3月のことだった。ちょうど“ミキリハッシン”で展示会が開催中だったので行ってみると、デザイナーと言って紹介されたのは、まるで高校生みたいな林香衣(かえ)さんだった。パターンを担当しているパートナーの尾崎温加(はるか)さんと並ぶと、高校手芸部のようだ。並んだ服も一見、制服をアレンジした子どもの服みたいで、ん、大丈夫?と思ったくらい。ところが話を聞くと、とてもしっかりした考えと取り組みに驚かされる。ブランドコンセプトは「記憶や憧れにデザインを加えたもの」。そしてフタツククリとは、子どもの頃憧れていた髪型(二つ結び)のこと。林さんは、昔から人を見る時、髪型と服に激しく反応するのだそうだ。自分の中にはロリータコンプレックスがあると言って、作る服は「大人のための子供服」だそう。ますます不思議。ロリータコンプレックスって、おじさんの専売特許じゃなかったっけ?

ブランドを始める話を持ちかけたのは、尾崎さんのほうだ。2人は大阪のマロニエファッションデザイン専門学校の同級生。尾崎さんは林さんをずっと観察していて、「この人のおもしろさはなんかちがう」と思い、「この時代に不安を感じない」林さんとなにか始めたいと思う。でも、学校時代は友だちでいたいからその話は持ち出さないで、卒業を待って声をかけたそう。「一緒にやっていくのって覚悟がいるでしょ。だから」と、尾崎さんは大人っぽく言う。

10代の林さんは、服を作りたい気持ちがあふれていて、高校時代には、古着をパッチワークしたりしてリメークしたものをアメリカ村の古着屋に持っていって置いてもらったり、専門学校時代には装苑賞にも応募して、一次選考で高田賢三さんに選ばれたり。キノコをモチーフにした「生える」という作品で、賢三さんには「そのまま過ぎる」と評され、実物の2次審査では残念ながら落選したが、そんな創作意欲満々の時代を経て、今は、服を作って売るというリアルな現実に直面している。いざ作るとなると、実は派手好きな部分は抑えて、制服へのあこがれを懐かしさと新しさが溶け合う形にまとめている。かわいいメンズもあり、シーズンに30型弱発表。季節は、語感がいいからと、夏秋と冬春の年2回(普通は、春夏と秋冬)に勝手に変更した。

ビジュアルにもこだわり、夏秋には、写真家の花代さんに撮影をしてもらい、今度の冬春は、イラストレーターのちえちひろさんとコラボレートするなど、意欲的だ。今度の冬春のテーマは「みだしなみ」。それは、大人が考えるきちんとした服ともフォーマルとも違う、中原淳一風の「みだしなみ」なのだ。既存の言葉では説明できない女子ならではのちょっとエロチックないたずらもしかけられている。

「自分がたどってきた憧れの実現を続けていきますが、それがイヤになった時、新しいものが生まれると思います」と、とても冷静に香衣さんは言う。どうやら確実に新しい女子が誕生しているようだ。

林香衣(はやし・かえ)
1984年大阪生まれ。’03年高校在学中、今はなきアメリカ村無国籍百貨に入っていた古着屋にて古着のリメイクの取り扱いが決まり、創作に取り組む。高校卒業後、マロニエファッションデザイン専門学校へ入学。‘06年専門学校卒業後、オートクチュール科の講師の元で一年間修業。その最中、装苑賞に入選、二次審査で落選。‘07年より、劇団「子供鉅人」の衣装を担当。‘08年大阪堀江のセレクトショップにて古着のリメイクの取り扱いが決まる。‘09年専門学校の同級生、尾崎温加とブランド「futatsukukuri」を結成。拠点は大阪。
http://www.futatsukukuri.com/