草彅洋平「世田谷酒日記」

第十一酒 三軒茶屋 とり石

ある哲学者が、「コスパ」(コストパフォーマンスの略)を使う人々を批判して近頃ネットで話題になった。バカはコスパという言葉を好み、一流の店を貶め、三流の店を持ち上げるから、日本はダメになる、そんな論評である。これに僕はどうも納得がいかなかった。一流と三流の店を同列にする理由はないが(まして貶めることもない)、美味いものが安くて何が悪いという話である。コスパという言葉をこの連載で使った自分にとっても、無視できない話である。

僕は少しでも安く買い物をするのが大好きだ。また自分の常識を超えたものに遭遇すると異様に興奮してしまう性質でもある(例えば1万円だろうと推測したら500円だった、などに喜びを感じる)。この思考に、なるべく美味しいものを食べたいと願う本能がプラスされれば、自然とライフスタイルもコスパ重視になってくる。つまり安くて美味しいものを日常的に食べたいわけだ。そうした庶民的な価値観が、哲学者が嘆くような危険思想には思えない。極めて健全な、庶民的な生活思考といえるだろう。そしてそんなお店は絶えずお客さんで賑わい、だれもが幸せそうな笑顔で溢れている。

例えば、世田谷区でコスパの良いお店の代表格である「とり石」がそうだ。三軒茶屋で2~4人で飲むことになったとき、僕が大体連れて行くお店である。店は地元の人で絶えず混んでいて、活気がある。料理はボリュームがあり、非常に美味しい。いつもオーダーするのは「つくねピーマン詰め」(210円)、「とり石風チキンステーキ」(480円)、「ビッグもも唐揚げ」(500円)だ。〆は「とりのチャーハンカレー風」(650円)。スープも人数分つけてくれて気前がいい。お会計はいつも一人2,000~3,000円で、なんと帰りに人数分の次回来店時提出で500円オフになる緑色のクーポンをくれるから、もうリピートせずにはいられないだろう。
 
美味しい物を安く提供できる店は、その存在だけで「キセキ」である。利益効率、回転率、さまざまな面から現実的に考えれば、美味しく、ボリュームを出しつつ、安価に提供することは大冒険だ。そんな現代のキセキには、ただ感謝あるのみだ。コスパ上等である。

とり石
世田谷区三軒茶屋2-15-14-104
TEL:03-5430-1002
営業時間:17:00~0:00 水曜定休

草彅洋平(くさなぎ・ようへい) 
1 9 7 6年東京生まれ。(株)東京ピストル代表取締役として、プランナー、編集、執筆、ディレクションなど幅広い業務をこなす。編著に『作家と温泉』。
http://www.tokyopistol.com/