西谷真理子「女子の強気」

第11回 幾左田千佳(REKISAMIデザイナー)
バレエからファッションへの大転身

文 西谷真理子(編集者・元high fashion ONLINE チーフエディター)


2013年春夏より。テーマは「PLANT」。
美しいだけでない植物の造形や生命力を表現した。

photos:Tohru Yuasa

3歳からバレエを始めた幾左田千佳さんは、18歳まで、クラシックバレエダンサーを目指してひたすら練習に明け暮れる日々を送っていた。同年齢の普通の女の子が夢中になるようなおしゃれもバンドも眼中になく世界的なバレリーナという頂点だけがリアルに存在していた。しかし、そのストイックで苛酷な練習ととりわけウェイトコントロールに、体と心が悲鳴を上げた。そしてとうとう挫折。10代の終りにして抜け殻のようになってしまった。そんなとき、気分転換のような気持ちで入ったファッションの世界に、新しい道を見つけ出し、なんと、26歳で自分のブランドREKISAMI( レキサミ)を始めるまでになった。それから6年、ファッションショーをやることもなく、展示会だけで発表してきた小さなブランドは、今や伊勢丹、バーニーズ、アッシュペーフランスといった有力な取引先を持ち、1シーズンに70型のコレクションを作るまでに成長した。

ファッションの専門教育を受けたわけでもなく、おしゃれが何よりも好きというわけでもなかった幾左田さんをここまで突き動かしたものはなんだったのだろう。バレリーナらしい首筋の伸びた優雅な姿勢で答えてくれた。

「バレエをやっている時、私にとって大事なのは、自分の体を使って表現するということでした。流行の服を着ることも見ることもあまり興味が持てなかったのです。ただ、毎回採寸して作ってもらう衣装にはとても興味がありました」。そんな背景もあり、美しい布に刺繍やレースで飾ったバレエの舞台衣装を生かした日常着、というのを、REKISAMIのコンセプトにした。チュールやシフォン、刺繍やレース、ゴブランは必ず登場するが、「それを着て電車に乗っても目立ちすぎないこと」「古着のジーパンに合うこと」「白、ベージュ、黒が基本」「裁ちっぱなしや洗いなど崩した要素を加えること」など幾左田さんの考える「日常着」の要素を備えることで、バレエの衣装の香りを残しつつ、ただ美しいだけで終わらない存在感を持った服が生まれた。作るにあたってなによりの強みは、必ず自分で着てみて動き(もしかすると踊って!)、着心地や動いたときの美しさに細心の注意が払われていることだ。これを着ることで、女性は街を歩いていても少しバレリーナの気分になれる。REKISAMIの服は、一度好きになるとずっとファンでい続ける人が多いそうだが、それはもしかするとバレエを諦めた幾左田さんの夢を女性たちが知らず知らず肩代わりして共有しているからなのかもしれない。

幾左田千佳(きさだ・ちか)
1980年三重県生まれ。バレリーナとしての活動などを経て、2005年にファッションアパレル、エルバグースに入社、2007年に同社よりREKISAMI (レキサミ)をスタート。ヨーロッパのヴィンテージの香りのする手の込んだ、しかしモダンな日常感覚のそなわったコレクションを展開。刺繍やビーズ、レースなどのディテールの繊細さが好評。
http://www.rekisami.com