今月の特集

今月の 「学校」
内田伸哉さんに教わるマジックの魅力

取材・文 小林英治  写真 小田雄太

マジックの面白さを、タネだけでなく演出にも注目して学園ストーリー漫画で伝える『演出から学ぶ手品入門BOOK  はじめてのトリック野郎』(ポプラ社)。本を監修した内田伸哉さんはマジシャンとして活動する一方、コピーライターとして広告の世界でも活躍しています。そんな内田さんと漫画を手がけた神谷圭介さんに、マジックの魅力をうかがいました。


© 2012 Keisuke Kamiya, POPLAR Publishing Co.,Ltd.

マジックを観た時の感動を本で再現するには

―― そもそも内田さんがマジックを始めたきっかけを教えてください。

♣内田 高校生のときに鳩のマジックを目の前で見た感動がもとにあります。生で体感するインパクトがすごく強かったので、そのインパクトを世の中に拡げたいという気持ちがありました。それに天の邪鬼な性格だったので、まわりの人がやっていない何か面白いものはないかと探していました。

―― こ の本のインパクトも強烈ですね。いわゆる教本とは違ったマジックの面白さを伝えています。

♣内田 これまでのマジックの本には、マジックの種類はたくさん載っているのですが、それによって何が起こるのか、何が面白いのかが充分説明されていないものが多かったんです。この本には15種類しか載っていないですけど、代わりにその部分を丁寧に描いて、実際に生で見た時の感動を再現したかったんです。紙媒体でマジックの面白さを表すことを考えたときに、『あたらしいみかんのむきかた』(小学館)のイラストに強いインパクトを感じた神谷さんに描いていただこうと依頼しました。

♦神谷 僕も声をかけていただいて初めて生でマジックを見たんですが、その印象をなるべくそのまま本で伝わるようにと考えました。マンガを描いたのは初めてだったんですけど、マジックは相手の視線を上手く操っていることがわかり、マンガのコマ割りの見せ方にハマると思いました。

♣内田 「空中コイン」という有名な手品があるんですが、これは最初から見えてたはずのコインが、「ミスディレクション(※1)」を使って意識をコントロールして、急に現れたように見せます。マンガでもそういった細かいところを指示して表現していますね。

―― 手品のタネ以上に重要だという「演出」も、マンガの表現が得意とするところですよね。

♣内田 はい。流れ、視線、動きと、コマ割りだけでなく台詞にもこだわっていますので、これはプロが読んでもうまく描かれていると思いますよ。いろいろ指示されて神谷さんは大変だったと思いますけど(笑)。

♦神谷 「マジックは演出が大事」と宣言している以上、漫画的な内容の見せ方の演出もなされていないと説得力がないと思ったので、妙な感じの転校生がマジックを通して魅力的な人物に見えてくるというストーリー全体の流れを考えました。

マジックは心理学でもある

―― 実際マジックをやってみようと思っても、見せるためにはある程度スキルが必要ですよね。

♣内田 スポーツなどと違って、マジックは成立するまでの初期段階のハードルが高いんです。例えばダンスだったら、最初は上手く踊れなくても音に合わせて身体を動かすだけでも楽しいじゃないですか。そこからステップを習得したりスキルアップすることが可能です。でもマジックはタネがバレたらそもそも成立しないし、驚いてもらえないとやっていても面白くない。この本は難易度としては超入門レベルで、それを応用してもらえるようにトリック自体にも着目しています。

――「 ミスディレクション」や「ラベリング( ※ 2)」「選択的注意(※3)」といった、トリックの根底にある考え方が解説されていますね。読みながら、そういう概念を知ることが普段の仕事でも応用できるのではとも感じました。

♣内田 僕の場合、仕事ではプレゼンテーションをする際に役立っていますね。人の思考を読むところや、大勢の前で自信をもって発表することにも慣れましたし。僕の中で広告の仕事とマジックで共通している点は、人を驚かせる、楽しませるということです。そこが一番興味のあるところで、それができればどんな方法でもいいんです。

―― なるほど。

♣内田 それから、マジックは実践的な心理学だともいえます。「選択的注意」という用語も、心理学からきています。例えば「ミ
スディレクション」で働いている心理的作用を知ることで、その逆を考えて交通標識を見やすくする方法が考えられるかもしれません。騙されて、学んで、応用する、という「奇術心理学」の授業を大学のときに考えて、講義したこともあるんですよ。

―― その授業は受けてみたいですね。ぜひIIDでもワークショップをやってください。

※ 1 ある動作で観客の注意を引いておいて、裏でこっそり物を取ったり隠したりといった秘密の動作をおこなうこと。 
※ 2 物事や行動にあるイメージや勝手な想像を与え、定着させること。 
※ 3 特定の刺激情報だけを選択し、知覚すること。別名「カクテルパーティー効果」。

★ 1月12日(土)に内田さんによるワークショップ、「~親子で楽しむマジック教室~ 学校にある道具で手品をやろう!」をI I Dで開催しました。


内田伸哉(うちだ・しんや) 
1981年神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科卒。コピーライターとして広告会社勤務の傍ら、マジシャンの活動をおこなっている。2010年に発表した「iPad magic」が国内外で話題を呼び、文化庁メディア芸術祭賞奨励賞受賞。

神谷圭介(かみや・けいすけ) 
1979年千葉県生まれ。武蔵野美術大学卒。書籍の企画構成、イラストや文章執筆のほか構成作家、デザイン、イラスト、映像制作など活動は多岐にわたる。スガタデザイン研究所所属。またコントユニット「テニスコート」のメンバーとしても活動。

  

♣ できるかな♥
眼球カード

相手が引いたカードを直接見ないで、相手の眼球に映して読み取るというマジック。
用意するのはトランプ一組。相手をいかに信じ込ませるか、「技術」よりも「演出」がキモ!


①相手に任意のカードを1枚引いてもらいます。


②「今からあなたの眼球に
 このカードを映して読みとります」


③「見えました!ダイヤの2です!」

【タネあかし】

右手でカードを持ち、カーブさせて相手の目に映すフリをして、
相手が戸惑った隙にカードの端の数字とマークをチェック。

→ 眼球に映してカードを当てると思い込ませる
 「ラベリング」
→カードをじっくり見させることで隙をつくる
 「ミスディレクション」

  

『演出から学ぶ手品入門BOOK  はじめてのトリック野郎』(ポプラ社)
謎の転校生・罠尾翔(わなお・かける)。意表をついた手品でクラスメイトに「トリック野郎!」と呼ばれ、注目を集めるようになる。全1 0話の学園ストーリー漫画で手品を体感し、その後、手品のくわしいやり方とマジシャンが教える演出方法や、日常にも活かせるちょっとした心理コントロール術を学ぶことができる、新感覚のマジック実演漫画。翔くんは今月のIID PAPER の表紙にも登場!