草彅洋平「世田谷酒日記」

第十三酒 食堂 おさか

三軒茶屋のBAR「ONSEN」ができるまでの数年間、僕らがひたすら集まり飲んでいたお店はどこかといえば、それは「おさか」であった。三軒茶屋の三角州、ゴールデン街的な飲み屋街に位置する「おさか」は22時オープン、翌朝の13時クローズというまるで営業時間帯だけで切り取れば北千住にあるようなお店だ。20代のとき、僕らクリエイターの仕事は夜0時を回って帰るのが当たり前。酒好き、不摂生、さらに深夜ガッツリ食べいという危険な思考を持ち合わせてもいた我々が「ハラ減ったなあ」とつぶやいたとき、友人に教えてもらったのが「飲み屋なのに定食がある美味い店」と評判の「おさか」だったのは運命だ。事実、とりから揚げ定食、黒豚塩だれ定食、おろしハンバーグ定食、白モツ煮込み定食と書いているだけでヨダレがこぼれ落ちそうなバリエーション豊富なメニューに控えのつまみも優秀とあり、飲みつつ食べる深夜の定食は格別。といって手作り感満載で決してジャンクではないのが僕らにとって心地よかったのである。

定食はいろいろあるのでお好みだろうが、干物定食をオススメしたい。西伊豆直送の干物はあじにえぼだいなど種類も豊富。思えば干物定食が美味い店というのはそれだけで何か完璧な気がしてくる。ましてやそれが飲み屋であれば、ビールとポテサラもオーダーするのが筋というものだ。さらにご飯を「どくだみたまごごはん」にバージョンアップさせるという手もある。これは何かというと北九州で育ったどくだみだけを食べて育った鶏の卵の卵がけご飯なのだ。定食に付いてくる「すまし汁」があなどれない。テーブルに5種類の味噌が置いてあり、お客は自分の好みですまし汁に味噌を溶いて、勝手に飲むという寸法である。これが酔っていると味噌が溶けていく様子を眺めていくだけで、なかなか楽しい。

三軒茶屋在住の方々が独りで深夜に定食をほうばる姿を頻繁に見かける、まさに三茶の「深夜食堂」といえる粋な店である。

食堂 おさか
世田谷区三軒茶屋2-13-9
TEL: 03-3419-4129
営業時間:22:00~13:00( ご飯が無くなり次第終了)

草彅洋平(くさなぎ・ようへい)
1 9 7 6 年東京生まれ。(株)東京ピストル代表取締役として、プランナー、編集、執筆、ディレクションなど幅広い業務をこなす。編著に『作家と温泉』。東京ピストルでてがけた日本近代文学館内の文学カフェ「BUNDAN COFFEE& BEER」も話題に。
http://www.tokyopistol.com/