西谷真理子「女子の強気」

第13回 文月悠光さん(詩人)
言葉のスタイリスト。

文 西谷真理子(編集者・元high fashion ONLINE チーフエディター)

文月悠光さんは現役の大学生にして中原中也賞も受賞したプロの詩人だ。なぜファッション周辺のクリエーターばかりを取り上げて来たこのコーナーに詩人が?という疑問を持った方は、まずこの写真を見てほしい。これは『原稿用詩』というタイツである。アーティストとコラボレーションをしたタイツを扱うサイト、tokone(トコネ)に依頼されて、脚を言葉で包むための詩を提供し、商品説明も書いた。

その商品説明には、

 「これは、脚にまとう詩集です。/ただし、この詩集の原稿には、たくさんの余白があります。あなたは余白を許しますか?余白に何を書き込みますか?/余白を埋めるのは、あなたの歩みとたたずまい。/それこそが、あなたのいとしい詩となるのです。/原稿用紙のマス目を脱して、ひとり躍り出て、/あなたは駆ける、跳ねる、立ち尽くす、愛する。/すべらかに、ひっそりと、きりり、しゃんとして。/あなたの詩は、どこにでも歩いて行ける。/かかと と かかとを合わせて、戦闘待機。」

とある。これはファッションの専門家がひねり出す言葉とは少し違う。なにか、言葉が生き物のようにしてタイツを履く人に寄り添っていく様子が見えるような。実は、文月さんは、ツイッターにこんなつぶやきも寄せていた。

「ファッション誌のあのテキストが何なのか、誰も説明しないじゃないですか。それが面白くてたまらない。添えものとしての言葉に可能性があると思う。何にでも着せ替えられる詩という洋服。これしかありえない、という組み合わせを、あなたとわたしで作れたら。言葉のスタイリストになりたい。」

「言葉のスタイリスト」! 新しい服を生み出すのは、デザイナーやパターンナーなどの作り手だが、それを新しいファッションとして定着させる存在として、写真家やスタイリスト、バイヤーなどがいる。そこに、文月さんが言うような言葉のスタイリストが加わると、ファッションはさらに躍動的なものになるにちがいない。

中学生で詩の雑誌への投稿を始めたという言葉に関して早熟な文月悠光さんだが、詩という形式で繊細で奔放な夢を紡ぐ一方、詩以外の形でも自分の核になっているものを伝えることは可能だと思っている。それは小説でも、エッセイでも、ファッション雑誌のコピーや映画評という形ででも実現できるはずで、その核こそが、文月さんにとっての詩なのだ。こんな風に考える詩人は稀有だ。

「詩は紙の上にあるんじゃなくて日常の中にあるふとしたできごととか発見の中に隠れているものだっていうのは、高校生くらいからずっと思っていました」。日々ふと生まれる言葉は、適当な紙やノートに書き留められ(PCではなく)、それらは膨大な「言葉の端切れ」として出番を待っている。求む、言葉のスタイリストの活躍の場。

文月悠光(ふづき・ゆみ)
1991年札幌市生まれ。中学2年から詩の投稿を始め、16歳で現代詩手帖賞を受賞、さらに、2010年、詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で第15回中原中也賞を最年少で受賞。詩、エッセイ、書評などを執筆。また、ナナロク社のホームページにて恋の詩を連載中。タイツブランドtokoneに参加し、タイツに詩の言葉を載せる。第80回NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞を担当する。現在、早稲田大学教育学部に在学中。
http://www.geocities.jp/hudukiyumi/

☆お知らせ「女子の強気」執筆者の西谷さんが編集された『相対性コム デ ギャルソン論』(フィルムアート社)が好評発売中です。