今月の特集

今月の「世田谷」
三軒茶屋と世界をつなぐ世田谷パブリックシアター

取材・文 小林英治

三軒茶屋のランドマーク、キャロットタワーの中にある世田谷パブリックシアターは、今年で開館16 年目を迎えます。大小2つの劇場で現代演劇とコンテンポラリーダンスを中心に公演を行うほか、ワークショップなどの教育普及事業や地元の商店街と連携したフェスティバルにも力を入れている様々な活動について、劇場部長の楫屋一之(かじや・かずゆき)さんに話を聞きました。


『地域の物語』作品(2012年)

実験的な舞台芸術を積極体に発信

――国内プロデュース公演はもちろん、国際協同制作という形を国内でも早くから取り組まれている劇場だと思います。

楫屋 以前は海外作品の公演となるとパッケージ化されたいわゆる招聘事業が中心でしたが、より積極的に関わるということで、『春琴~谷崎潤一郎「春琴抄」「陰翳礼讃」より~』(演出:サイモン・マクバーニー/2008, 09, 10年)や『遊*ASOBU』(振付・演出・出演:ジョセフ・ナジ/2007年)といった作品では、発想の段階から海外と日本のカンパニーやスタッフ、アーティストが組んで、何年もかけて共同作品を作りあげました。作品を世田谷で発表した後に、日本国内を回って、さらに海外のフェスティバルやツアーに出かけたりもしています。そういう意味では三軒茶屋の劇場でありながら、ここを拠点に創造型の公共劇場とのネットワークで一緒に作り、なおかつ国際的な協同制作も行うという特徴があります。その意識はスタッフ全員がオープン当時から共有していますので、それまでの公共劇場とは一線を画す活動をしてきているという自負はあります。

――コンテンポラリーダンスというジャンルの普及自体にも貢献していますね。

楫屋 今では完全にダンスの一つのジャンルとして確立しましたから、そう思っていただけると嬉しいですね。日本のコンテンポラリーダンスの評価は海外でも非常に高いんですよ。彼らはフットワークが軽く身体一つで海外へも行くことができるので、ヨーロッパツアーなども積極的に取り組んでいます。

――ダンスに限らず、若手のステップアップの場にもなっています。

楫屋 若手発掘でいうと、1月にも開催したばかりの「シアタートラム/ネクスト・ジェネレーション」というシリーズがあります。すでに5回目ですが、今年は公募から旬の伸び盛りのカンパニー2団体を選んで、シアタートラムで公演をしてもらいました。カンパニーには新しい観客を開拓するとともに、我々がサポートすることで作品やカンパニー自体のステップアップの手がかりを得てもらえばと思っています。


『春琴』 (2010年) 撮影:青木司

もうひとつの柱、多様な教育普及活動

――ワークショップも様々な形で開催されています。

楫屋 今ではどこの劇場でもやっていることですが、まずはオーソドックスなワークショップとして、例えば学校が休みの期間に小中高生、あるいは先生に劇場に来てもらって、演出家や専門のファシリテーターによるワークショップがあります。逆に学校に出向いて国語の授業の中で演劇の授業をやったり、体育館でダンサーと一緒に身体を動かしたりしながら小さな作品をつくることもあります。数としても年間で約200のワークショップと70のレクチャーがあり、非常に多く開催しています。これらの活動は創作発表と違って目立ちにくいですが、ボリューム的にも内容的にも明らかに世田谷パブリックシアターの一つの特色になっていることは間違いないですね。劇場での公演中に行うポストトーク/プレトークもかなり早い時期から行っています。

――参加者がアーティストと一緒に作品を作り上げる「地域の物語」も興味深い取り組みです。

楫屋 毎年テーマを決めて、参加者が地域住民にインタビューをしたり街に出かけて取材することで、様々な物語を掘り起こし演劇やダンス作品を作り上げるワークショップです。今年は「みんなの結婚」がテーマで、1月からスタートして3月末にはシアタートラムで各グループの作品を上演いたします。ここでは作品をつくるプロセスを通じて、参加者同士や地域の人々、観客が出会い、多様な考えや思いを共有していくことも目指しています。他にも、公募で集まった世田谷区立中学校の生徒が日野皓正さんらプロのミュージシャンに教わる「ドリームジャズバンド」のワークショップと発表会も2005年から続けています。これはIIDの隣にある体育館も練習場所になってるんですよ。


日野皓正 presents“Jazz for Kids”  撮影:牧野智晃

街のざわめきが文化を育む

――ワークショップ以外にも地元を巻き込んだイベントがありますね。

楫屋 まずは、区内在住・在勤で活動している様々な文化団体にゴールデンウィーク中に劇場を開放して無料で使用していただく「フリーステージ」という催しがあります。世田谷区は文化活動が盛んな地域ですから、音楽ではクラシックからポップスまで、ダンスもモダンからストリートまで多彩な活動が行われていますので、その発表の場として利用していただこうと。その際に劇場のスタッフが全面的にサポートすることで、専門性の高い公共劇場として区民の皆さまに認知していただくことにもつながっています。

――そのベースには世田谷区民の文化に対する関心の高さもありますか?

楫屋 前提として、区民の文化に対する関心度が高いことは間違いないですね。柔軟な発想を受け入れてくれるという素地がありますし、三軒茶屋という街が持っているにぎやかさみたいなものも文化にとって非常にいい土壌になっていると思います。秋には、毎年10月第3週の土日で、「世田谷アートタウン」という大道芸フェスティバルをオープン当初から開催していますが、これは三軒茶屋にある10前後の商店街すべてが集まって実行委員会をつくって運営しています。天候にもよりますが2日間で平均20万人の集客があり、食事をしたり一杯やったりと街全体を楽しんでいただくことで経済的にも相乗効果があり、三軒茶屋という街へのリピーターが増えるきっかけにもなっています。

――ありがとうございました。見るだけでなく、学んだり、参加したりと、世田谷パブリックシアターをどんどん利用したいですね。


世田谷アートタウン「三茶de大道芸」 撮影:奥秋圭

芸術監督 野村萬斎

先端的な舞台芸術を標榜している劇場で、2期10年にわたって芸術監督を務めるのは、狂言という600年の伝統をもつ世界で活躍する野村萬斎さん。世田谷パブリックシアターでは、伝統的なテーマや古典作品に現代的な視点や演出を融合させた作品を発表。この2月に上演される『マクベス』(構成・演出・出演:野村萬斎)は、出演者を5人に限って、狂言師である彼ならではの独特の解釈によるシェイクスピアの作品で、世界ツアーも決定しています。

『マクベス』
期間:2013年2月22日(金)~3月4日(月)
原作:W・シェイクスピア 翻訳:河合祥一郎
構成・演出:野村萬斎
出演:野村萬斎、秋山菜津子、
小林桂太、高田恵篤、福士惠二
お問い合わせ:
世田谷パブリックシアターチケットセンター
TEL:03-5432-1515(10:00~19:00)


『マクベス』初演時(2010年)より
撮影:石川純

野村萬斎さんからIID PAPER読者へのメッセージ

「再演にあたり、今回は、海外公演を視野に入れて演出を一新、より能・狂言の手法やエッセンスを取り入れて、世田谷から世界へ発信したいと思っています。単なる“ジャポニズム”ではなく、日本の精神で読み解くことで、シェイクスピア作品に敢えて日本人が挑むことの優位性を見て楽しんでいただきたい。シェイクスピアも能・狂言も同じ中世の仲間です。古典といわれるシェイクスピアを、能・狂言の手法を用いて現代に照らし合わせて演出する。古くて新しい、新しくて古い、『マクベス』の真骨頂をお楽しみいただければと思います」

世田谷パブリックシアター
〒154-0004 東京都世田谷区太子堂4丁目1番1号
三軒茶屋駅[東急田園都市線・世田谷線]直通キャロットタワー内

世田谷パブリックシアター(基本形状600席)