西谷真理子「女子の強気」

第14回 ひがしちかさん(Coci la elle)
日傘をさしたシングルウーマン

文 西谷真理子(編集者・元high fashion ONLINE チーフエディター)

日傘「キャベツ」(麻素材)

ひがしちかさんと初めて会ったのは、もうずいぶん前のことだ。2004年シアタープロダクツが初めて渋谷にショップをオープンした時(その後パルコに移転)、そのレセプションで。デザイナーのアシスタントから生産管理から雑用からなんでもこなすスタッフだった。全身から人柄の良さと温かさがにじみ出ているようなチャーミングな人で、私のどんな質問にも、丁寧にハキハキと受け答えしてくれたことが好印象となって記憶に残った。数年後、シアターのコレクション会場で出会ったら、今度日傘屋を始めると言う。シアター時代に比べて、すっかりスマートになり、優雅に成長したひがしさんに日傘は似合うだろうなあと思ったものだったが、実はとても優雅どころではない、孤軍奮闘ぶりが、今回の取材でわかった。

日傘屋coci la elle(コシ・ラ・エルと読む。つまり“こしらえる”)を設立したいきさつや、その後の展開はまるで小説のようだ。ひがしさんは、長崎での少女時代から、雑誌のファッションページにかかわる「素敵な」仕事に憧れて、その中でもデザイナーに目標を定めて上京。文化服装学院卒業後、初期のシアタープロダクツに入り、2年間働いて多くのことを学び、「素敵な仕事をする人たちは、人間が素敵なんだ」ということに気付くが、自分でも「素敵な」ものを生み出したくて、シアターから離れ、紆余曲折を経て、2010年にCoci la elleを始めた。実はその間に、シングルマザーになるという人生の一大事件があり、子どもを育てるために、収入を得なければならなくなる。頭を切り替えて事務職を受けてみても、見事全敗。絵を描くことがなにより好きなひがしさんだが、絵を売って生活するのは難しい。そんな時、ふと目に入ったのが、学生時代に作った日傘だった。思い立ったら即実行。急遽無地の傘を仕入れて、1点1点刺繍をしたり、直接絵を描いたり。10本できたところで、代々木上原のギャラリーを借りて展示会を開いた。DMの重要性はシアター時代に学んでいて、デザインを工夫して200部制作。シアターのコネを利用しないように全部自分でコンタクトを取り、発送。1本2万円以上する傘は全部売り切れた。そればかりか、その展示を見たSFTの担当者から、展示会の提案も受け、Coci la elleは細々と、だが、大胆に出帆した。今は、すべて1点ものの日傘を年に80本~100本、手描きの絵をプリントした生地の雨傘を150本制作している。それに加えて2011年からは、手描きの絵や自分で撮った写真のコラージュをプリントしたシルクスカーフも始めた。「日傘は夏場商品なので、冬はスカーフを。二毛作というわけです」とひがしさん。浅草橋の古いビルを友人のアーティストたちとシェアしてスペースを作ったり、布を通して表現するプロジェクト「meme(ミーム)」を始めたり、まだまだ発展途上ではありながらも、果敢に進んでいる。

安いものしか売れない、と言われる時代に、あえて高い日傘を作る。その価値に自ら責任を持つ。

これを手に取る人は、そこから「素敵な」夢を受け取るに違いない。これこそ、当代強気女子のビジネスの作法だ。


自主制作したスカーフの写真集『Scarf for you!!』

日傘「m」(企画オーダー品/刺繍&ドローイング 綿素材)
日傘「touch2」(パッチワーク、綿素材)

日傘「青い 島 縞」(ペイント、綿素材)

ひがしちか
1981年長崎県生まれ。文化服装学院卒業後、シアタープロダクツ他のアパレルを経て独立。2010年7月、日傘屋Coci la elle(コシラエル)をスタート。2011年2月、スカーフを始める。2011年11月、Ateliere&gallery Le lieu(ルルー)を始動(2013年3月クローズ)。バイヤー向けの展示会は行なわず、国立新美術館地下のスーベニア・フロム・トーキョー(SFT)での展示即売会、駒場のパン屋さんAUGUSTAでのスカーフ展などを開催。塩川いづみ、前田ひさえと3人で、meme(ミーム)も開始。スカーフの本『Scarf for you』も刊行。傘、スカーフともにネット販売を行なっている。
http://www.cocilaelle.com/