草彅洋平「世田谷酒日記」

第十四酒 BAR FABRICA

東京生まれ梅丘育ちの僕にとって、梅丘は愛着のある町に関わらず、あまり足を運ばない場所になってしまった。きっと現在の美登利寿司の唯我独尊状態があまり好きではないのだ。とはいえ突然発作のごとく寿司を食べたくなった時には美登利寿司にぶらりと向かい、あの大げさな行列に並ぶのだから、実に勝手な話なのだが……。

いや理由は別にあるのかもしれない。梅丘は店で飲むというよりも、外で飲むほうが良いと勝手に思っているからなのか。学生の頃は駅前の美登利寿司の持ち帰り専用店でパック寿司を買い、セブン-イレブンでビールを買って、羽根木公園でのんびり野球でも見ながら楽しむというのを昼間から頻繁にやっていた。特に梅が咲く頃は、陽だまりの中あたり一面に漂う梅香にむせながら鉄火巻の細切りをパクついていると、まるで仙人になったような気持ちで穏やかになれた。時々ルンペンたちが楽しそうに酒宴を開いているのを見かけ、彼らの楽しそうな姿を見るのが好きだった。隣接された梅丘図書館の雰囲気も好きなので、美登利寿司(テイク)→羽根木公園→梅丘図書館というコースを日中に散歩して帰ってきてしまう。だから飲みに行くということがメッキリ少ないのである。

唯一の例外が新宿から小田急線で家に帰る場合だ。僕の家はいまも梅丘近辺なので、歩いて帰る際に「梅ヶ丘」駅に下車する(気づかない人も多いが住所は梅丘だが、駅名は「梅ヶ丘」なのだ)。電車帰りはいつも、もう少しお酒が飲みたい気分になっている。そんな時小中学生からの同級生である渋田氏から紹介されたバー「ファブリカ」に向かってしまう。

扉を開け、カウンターに座ると、見ず知らずの人でも優しくマスターが話しかけてきてくれる。カクテルも美味しく安い。運が良ければ隣にいる美女と知り合うこともできる。僕は思い出した時に行くようなこのお店で意外と多くの人と知り合った。

このお店、店主のヒロシさんが北海道出身とあって、北海道のお客もまた多い。また音楽のスタジオが隣にあるために音楽関係者のお客も多いのだが、ヒロシさんがRiddim Saunterというバンドをやっていた人と最近知り、普通にネットで聞いていた僕はのけぞってしまった。

BAR FABRICA 
世田谷区梅丘1-21-7 梅丘駅前ビル2F
TEL:03-3427-9566(予約可)
営業時間:19:00~5:00 無休
http://www.bar-fabrica.biz

草彅洋平(くさなぎ・ようへい)
1976年東京生まれ。(株)東京ピストル代表取締役として、プランナー、編集、執筆、ディレクションなど幅広い業務をこなす。編著に『作家と温泉』。東京ピストルでてがけた日本近代文学館内の文学カフェ「BUNDAN COFFEE& BEER」も話題に。
http://www.tokyopistol.com/