西谷真理子「女子の強気」

第15回 高橋真理さん(ファッションモデル)
主体的に女性像を表現するモデル。

文 西谷真理子(編集者・元high fashion ONLINE チーフエディター)

spoken words project 2012 ss collection “夜の調べ” より

 
 
高橋真理さんにインタビューして、なんて澄んだ言葉を使う人だろうと驚いた。はっきりとよどみなく、飾り気がなく、柔和な話し方の中に言葉に対する感受性がにじみ出る。時々核心を衝いた表現も出てくるが控えめだ。1時間ほどのインタビューを聞き返してみて、話し言葉がそのまま文章になることや、気取った横文字や流行語が一度も出てこなかったことがとても印象に残った。

高橋真理さんは、ファッションモデルである。身長180センチ。日本では珍しいフリーのモデルである。通常、モデルはたいていモデル事務所か芸能事務所に所属して、売り込みや仕事の受注、ギャラの管理などを事務所に任せている。高橋さんも最初はそうだった。大学の講師の紹介でモデル事務所に所属したものの、高橋さんが思い描いていたモデル像にはほど遠く、引っ込み思案で長身にコンプレックスを持ち、目立つのが嫌いな性格は「弱い」と評された。ファッション業界に対して違和感を感じた高橋さんは考えた末、事務所を辞めてパリに旅立ったーー。

その前に、高橋真理さんを知るには、仙台での少女時代に遡らなければならないだろう。決して裕福ではなかったけれど、家族全員が楽器を演奏し、毎月家族で映画を見る日があったり、ダンスの公演や美術館に行くという家庭環境の中、4人兄弟の末っ子ということもあって、高橋さんは、のんびり、すくすくと育った。あまり子どもの好きなものは見せてもらえなかったと言うが、小学生の時に見たキスリングの『ジョゼット』や、アンドリュー・ワイエスの『クリスティーナの世界』、タルコフスキーの映画『鏡』の中の女性などが、女性像としてしっかり記憶に残り、高橋さんの好みを形作った。ピアノを生かして音楽の高校に進んだものの挫折。大学で上京して、モデルという仕事に出会ったけれど、どこかに先述したような女性像を表現できるのではという気持ちがあったからの選択だった。

パリでは、1ヶ月間安いアパートを借り、公園でリンゴとバゲットをかじる日々だったが、それでもパリの豊かさを呼吸して癒されていった。いろいろな美しさに触れたし、背が高いことを初めてほめられた。最後にはツモリチサトのパリコレデビューショーに出演するというサプライズもあった。帰国後、フリーのモデルとして仕事をする自信も生まれた。フリーで活動するようになって、いろんな人と直接つながる機会が増えた。とりわけ服の作り手たちの生の声を聞けるのは、ファッションの表現者であろうとする高橋さんにとって、大きな喜びだ。

10代がもてはやされるモデル業界にあって、高橋真理さんは決して若くはないが、ツモリチサト、ミナペルホネン、シアタープロダクツ、スポークンワーズプロジェクトなど数年以上にわたって継続的に彼女を起用するブランドはある。

「ピナ・バウシュの、老いてこそ美しいダンサーを見ていると、ああいう美しさがすごく好きだし、服の美しさもああいうところにあると思うのです。あんな風になれたら」。

そのために、ウォーキングレッスンを欠かさず、背筋を伸ばして街を歩く。彼女にとってはどこでも舞台なのだ。
 

THEATRE PRODUCTS 2012 ss collection“海のバレエ”Show より

 
 
高橋真理(たかはし・まり) 
宮城県気仙沼市生まれ。仙台市育ち。玉川大学卒業後、モデルとしてスタート。パリ(ワイズ、ツモリチサト、ベルンハルト・ウィルヘルム、アドリーヌ・アンドレ他)、東京(シアタープロダクツ、スナオクワハラ、スポークンワーズプロジェクト、ヨシダヒロミ、ヒスイ他)、ソウル(カン・ヒー・スーク、リー・ムーン・ヒー他)の各コレクション、ミナペルホネン、エドウィナ・ホールなどのルックブックなどで活躍。現在はフリー。
http://www.maritakahashi.com