西谷真理子「女子の強気」

第17回 ジュコさん(JUCO.デザイナー)
女子靴の未来を拓く

文 西谷真理子(編集者・元high fashion ONLINE チーフエディター)

 
 


(左)トルコで見つけた布をあしらったショートブーツ。(右)JUCO.風ハイヒールのヒールはイタリア製の市松状に革を積み上げたスタッキングを使用。

 

ある日、久しぶりに会った女性がはいていた靴に目が釘付けになった。黒い革のサイドゴアブーツは、ごついけれど、先がシャープで切れ味がよく、オレンジのアザラシのヒールが効いていて、ユーモラスでもあり、とにかく見たことがないデザインで存在を主張していた。外国製かと思いつつブランドを尋ねると、JUCO.という日本のブランド。男っぽい作りだが作り手は女性であることを知り、靴にひとかたならぬ関心のある私は、どうしてもその人に会ってみたくなった。

 


(左)文中に出てくるサイドゴアのショートブーツ。(右)つま先にファーをあしらったハイヒール。

 

そのデザイナージュコさん(愛称がブランド名に)の目黒区のアトリエには、旅先で買い集めたさまざまな国籍の布やオブジェに彩られるようにカラフルで力強く、ファンタジーあふれる靴が並んでいた。対照的にご本人はふわりと風をはらむワンピース姿のエレガントな女性であることにまず驚く(私の知っている靴作家は無骨な作業着がなじむ職人肌の人が多いので)。ジュコさんが靴を作り始めたのは、東京造形大学の4年生のとき。専攻は室内建築だったにもかかわらず、入学時から美術的な視点でファッションに関わりたいと考えていた彼女は、卒業制作で靴を取り上げた。それは、変身する靴というもので、ベースになる黒革のパンプスを制作し、表皮と底との間の溝にカバーを装着する。さまざまなカバーによって靴が服を着替えるように変身することを通して、ファッションの「変化する」というコンセプトを描き出した。そのために4年の夏から靴製作の学校に通ったことが、現在の仕事につながっているのだが、「学生時代にはハイヒールはおろか、コンバースくらいしか履いたことがなかったし、靴にマニアックな興味は全く持っていませんでした」と、ジュコさん。どうして、第一作のシンプルなパンプスに、すでに強烈な個性は宿っている。25歳でブランドJUCO.を立ち上げて7 年、年に2回の展示会でマックス15足の新作を発表するという小さな規模ながら、ファンも付き始めている。

 

JUCO.の靴の魅力は、ユニークなデザインとともに、いやそれ以上に、そのはき心地のよさにある。「今はデザインよりも生産が私の仕事の中心」と言うジュコさんの生産現場での奮闘ぶりは感動的だ。靴の業界は分業制で成り立っていて、革の裁断をする職人がいて、縫う職人がいて、底付けをする職人がいる。一人で量産品を作るのは不可能だ。経験の浅い若手デザイナーだとこれをセットでコーディネーターに依頼するのだが、便利な反面、思い通りに仕上がらないとどの工程に問題があったのかが見えない。これでは自分の思い通りの靴は作れないと考えたジュコさんは、自分で職人を選んで、全工程を自分で管理することにした。靴工場の集まる浅草に通っているうちに、運良くメーカーから独立したばかりの若い職人たちと知り合い、同世代で作業場をシェアし、ネットワークを作ることに成功。若手のやる気が、JUCO.を生み出したと言ってもいい。新しいのはデザインばかりではなく、システム自体もだ。この健闘ぶりが、JUCO.の魅力につながっている。そう、一見エレガントに見えたジュコさんの見事な強気女子ぶりを知って、私もJUCO.のファンになってしまった。

 


(左)民族風の柄を転写プリントしたカラフルなプラットフォーム式のショートブーツ。(右)ギャザーを寄せた革やテープで装飾したサンダル。

 

 

ジュコ
靴作家。本名は中島寿子。1981年生まれ。東京造形大学環境計画専攻卒業。同大学研究生修了。在学中より、靴で自己表現することを始める。2006年9月より「JUCO.」ブランドスタート。日々、試行錯誤しながらの靴作り。半年に一度の展示会を中心に、オーダー靴から撮影用の一点モノまで、様々な靴を手がける。
http://jucojuco.com