今月の特集

今月の「ものづくり」
イイダ傘店がオーダーメイドで傘を作る理由

取材・文 小林英治 写真 橋本裕貴

最近、巷で耳にする“小商い”(※)というキーワード。それは、街のあちこちで芽生えている、経済成長から縮小均衡へと移行する時代に見合った経済活動を模索する動きです。今回紹介するイイダ傘店は、使い捨てではなく長く使える傘をオーダーメイドで制作している、全国でも珍しい傘屋さん。民家を利用したアトリエに傘作家の飯田純久さんを訪ね、仕事の成り立ちからものづくりの姿勢まで、お話をうかがいました。

※小商い:自分の手の届く範囲、目で見える範囲(ヒューマン・スケール)で、大儲けはできないけど、取引きの繰り返しが確保できるビジネスのこと。「小商いとは、自分が売りたい商品を、売りたい人に届けたいという送り手と受け手を直接的につないでいけるビジネスという名の交通であり、この直接性とは無縁の株主や、巨大な流通システムの影響を最小化できるやり方です。」平川克己『小商いのすすめ』(ミシマ社)より

 

布づくりと傘づくり

―― 展示会で受注して傘をつくるというスタイルは珍しいですね。

飯田 実は最初から傘づくりを目指していたわけではないんです。大学では染織科でテキスタイルを学んでいて、プロダクト用の布というよりも自由に染めたり織ったりして、これ何に使うの?というような実用性のない布を作っていました。

―― ではそこから傘をつくるようになったきっかけは?

飯田 大学4年生のときに自分で染めた布でプロダクトを作ることになって、傘を選んだんです。洋服を作る人は多いんですけど、自分は周りの人のようにファッションに対する情熱もそれ程なかったので他のものを選んだだけで、特に深い理由はありませんでした。評価としてはどんな布が張ってあるかが重要なので、学生時代に作っていたものは傘として使えるものではなかったんです。でもそうして傘を作るうちにだんだん傘づくり自体にも興味が出てきて、世の中を見ても大量生産で作られた以外の傘がなかったので、自分で作ってみたら面白いかもしれないと考えるようになりました。

 


人気がある動物の持ち手は彫刻家に特注したもの。

 

―― 具体的に傘づくりを誰かに教わったのでしょうか?

飯田 師匠というか、80歳を超えても1人で傘を作っている方がいらっしゃるんです。ただその方は人に教える気は全然なくて訪ねてくる人をみんな断っていて、僕も最初は軽くあしらわれていました。それでも自分で作った傘を持っていって見せると、やはりプロなので欠点があると気になって「これは駄目だ。こうだ」って言ってくるんです。会ってくれるのは短い時間なので、それを必死でメモして家に帰って、改良してまた持っていく。それを繰り返して通いながら傘の作り方を身につけていきました。だから教わったというよりもちょっと独学に近い感じもあります。

―― 傘に使用する生地も自らデザインされているんですよね。

飯田 はい。傘だけではなくて、自分の布を作りたいという気持ちも同じように強くありました。傘づくりと並行して、学生時代からお世話になっている染工場の方に工場の片隅を貸してもらって、自分の柄の布を作ってそれを傘にするというのが当初の目標でした。それが2005年くらいです。

 


出来上がった刺繍の生地。現在は春の展示会で受注した日傘を制作中。

 

―― その頃はまだ仕事にするという考えはなかったのでしょうか。

飯田 最初は趣味だったので、自分で満足する世界ですね。母親にプレゼントしたら、それを見た母親の友だちが欲しいと言ってもう1本作って、またその友だちや知り合いから依頼があってというのを続けていました。それから知人の紹介で『装苑』の編集部の方とつながりができて手持ちのものを全部持っていったところ、オリジナルの傘は珍しかったのか誌面で大きく扱っていただいて、まだ仕事になっていないのに実態以上のページができあがって(笑)、問い合せがくるようになってしまいました。そのあと縁があったお店で展示会を開くことになり、準備期間が1年あっていろいろとサポートしていただいて、雑誌にも紹介され、びっくりするくらいの数のオーダーもいただきました。その後はまたお客さんが持っている傘を見た人が欲しいと口コミで広がって、翌年から春に日傘、秋に雨傘と分けて年2回の展示会を開くようになって、今に続いています。

 


スタッフは飯田さん含め3名。

 

―― 生地は工場に発注しているのでしょうか。

飯田 そうですね。シーズンごとに4、5種類の柄のデザインを自分で考えて、そこから型を起こす人、色を染める人、織る人と、それぞれの職人さんとやりとりをしてオリジナルの生地を製作しています。素材によって産地も違えば、織り方によって工場も違うので、今では全国各地の工場と仕事をしています。

―― ずばり傘の一番の魅力とは何でしょうか?

飯田 シンプルで完成された形ですかね。学生の頃は形を変えようとしてみたんですが、自分で作り続けていると変わってこなかった形の理由が分かるようになってきました。その中でも、人が見たときに何か今までなかった、欲しいと思ってもらうような傘を考えるところが面白いです。

 


生地から傘用に布を裁断しているところ。1本の傘につき8枚の布でできています。

 


8枚の布をミシンで縫い合わせたあと、金具などのパーツをつけて傘の骨にかぶせていきます。

 

すべての顔が見えるものづくり

―― オーダー制というのはこれからも変わりませんか?

飯田 「何でオーダー制なの?」とよく聞かれます。最初は欲しいと言ってくれる人に直接会いに行って作っていたのですが、オーダー数も増えてきたので展示会をやろうというふうになって、その流れで自然に今もオーダー制なんです。初めは「3ヶ月も待つの?」と驚かれもしたのですが、今はそれがウチの特徴のひとつと思っていただいています。デパートやお店から卸の話も受けるのですが、自分たちで作れる量も限られているので、どこでも買えるようにしなくてもいいかなとお断りしています。

 


お客様にいただいた感謝状。

 


趣向を凝らした展示会のDM。

 

―― ビジネススタイルとしても最近話題になっている「小商い」にも通じるように感じます。

飯田 この規模でやっていれば、例えば1,000人に1人が興味を持って欲しいと言ってくれればすごい数になりますよね。ありがたいことに1本3万円出しても買おうと思ってくれる人がいて、楽しみに待ってお届けするのを喜んでくれる方がいるので、無理に規模を大きくしようとは思っていません。生地だけでなく傘の部品も含めた素材の作り手から、使用してくれるお客さんまですべての顔が見えるので、駄目なものを作ったら自分の責任も痛いぐらいに分かりますし、良いものができた時には喜んでくれる感じもよく分かるので、今のやり方はとても気持ちがいいですね。

 
イイダ傘店
傘作家の飯田純久(写真)が作る、年に2回(春に日傘・秋に雨傘)の展示会での受注販売をおこなう傘のオリジナルブランド。シーズン毎にオーダーできる生地が変わり、オーダー受注後の約2~3ヵ月後に届けられる。店舗はなく、イベント時を除いて小売りでの販売もしていない。
http://www.iida-kasaten.jp/