今月の特集

今月の「学校」
「イルカの学校」が 次世代へ伝えたいこと。

取材・文 小林英治

2013年4月から、IID 世田谷ものづくり学校を会場に開校している「イルカの学校」は、今年2月に急逝したゲームクリエイターの飯野賢治(※1)氏が中心となり、「創発性を持つ若者により多く登場してもらいたい」という主旨のもと発足したILCA (Innovation ,Learning, Creativity, and Arts)が運営するイノベーター養成プログラム。「イルカの学校」が目指す未来像を、代表の江口勝敏さんにうかがいました。

 

 

 

ゲームクリエイターが望んだ将来の道

―― ILCAのプロジェクトは飯野賢治さんの発案だったそうですが、その経緯をお聞かせください。

江口:僕はもともと長らく音楽業界で仕事をしてきたのですが、16年くらい前に飯野と知り合って、2001年からフロムイエロートゥオレンジという会社(※2)でITのコンテンツ開発などを彼と一緒にやってきました。そこで10年近くクライアントの要望に応えるという形の仕事をしてきたのですが、昨年の秋に次の10年で何をやっていきたいか?という話をした時に、彼の口から「将来は教育に携わることをやっていきたい」という言葉が出たのがきっかけです。もちろん教育というのは僕らにとっては未知の分野だったのですが、飯野であればゲーム、僕だったら音楽でやってきた実績もあるので、そういう専門分野を切り口にして人々に伝えていくことができれば何かできるのではないかと話し合って、他にもスペシャリストの人間を呼び込んでいこうと開始したんですね。飯野がまずMITの伊藤穣一さん(※3)に話をすると賛同してくれて、有志が集まってスタートしたのが去年の11月くらいです。

 

4月の講座『とり・みきの「マンガを描いてみよう!」』

 

―― ILCAという名前は飯野さんの発案だそうですね。

江口:ILCAはイノヴェーション、ラーニング、クリエイティヴ、アート(Innovation, Learning, Creativity, and Arts)の頭文字で、飯野と伊藤さんが一晩メールをやり取りしてつけた名前です。たまたま「イルカ」になったので、ロゴを飯野がすぐに作りました。そして12月にはヒカリエで「未来創造イルカショウ」という立ち上げのイベントを開催しました。飯野の他に、竹内宏彰さん(アニメプロデューサー)、杉山知之さん(デジタルハリウッド大学学長)、小林弘人さん(メディア・プロデューサー)などが登壇して、伊藤さんにもビデオ出演してもらい、イノベーションと学びについてのシンポジウムを行ないました。

 

5月の講座『写真家ブルース・オズボーンが教える「サイコーな親子写真の撮り方」』

 

今は種蒔きの期間

―― そして4月から最初のプロジェクトとして「イルカの学校」をスタートされたわけですが、プログラムの構成はどのように組み立てているのでしょうか。

江口:僕らも「学び」に関しての方法論を持っているわけではないので、まずはゲーム、音楽、ITサービス、アニメ、原作・脚本、文芸・出版という分野でそれぞれのエキスパートならではの知識や経験を伝えていこうと考えました。今はまだバラエティの玉手箱をどこまで拡げられるか、いろいろな講座をやってみてお客さんの反応も見ながらトライアルしている段階です。実際に2~3カ月やってみて、アナログな環境の中でスローな雰囲気というIIDの場所柄もあってか、ワークショップ系の講座に人が集まっていますが、今後はITに関わるビジネスセミナーのような少し堅めなものにももっと力を入れていきたいです。飯野はとにかく人をビックリさせるのが大好きでしたから、僕らもいろいろなベクトルでコンテンツの種を蒔いて、参加者にビックリしてもらいたいと思っています。

 

5月の講座『ビール博士・藤原ヒロユキと嗜むクラフトビールの世界』

 

―― 講座名だけ見るとバラバラなようですが、理由があってのことなんですね。

江口:すべての講座で共通しているのは「コンテンツを生み出している」ということなんです。そのコンテンツというのは、講座の内容やワークショップの成果物というものだけではなくて、そういった先生が語る言語領域プラス、その先生のキャラクターやお客さんも一緒になって作っていく場の雰囲気、つまり非言語的な空間や空気感というものを含めて「コンテンツ」と考えています。例えば絵本を作りましょうという時も、そのできあがった絵本だけでなく、作るプロセスで誰に教わったのか、誰と相談してどういう人たちとその世界を旅していったのか、抽象的なレイヤーも含めたコンテンツというものが非常に重要になってきます。それはデジタルの時代だからより言えることで、非言語領域というのはなかなかデジタル化できないからです。飯野とも言語領域/非言語領域の話はいつもしていました。今の世の中では、仕事場でも学校でも非言語領域の価値はないがしろにされがちですが、非言語領域まで含めた世界で人間が存在してコミュニケーションを取り合っているという、人間本来の姿をしっかり伝えていきたいと考えています。人間同士がひとつの場を作ることでストーリーが生まれ、そこに伝わるべき必然性が生まれる。そういう姿勢で人と人が向かい合うことで、教育から学び、学びから学び合いというベクトルに向かっていく。それを後々は「プロデュース学」と称して、ある抽象的な概念、感覚、感性というものを同時に育てていきたいと思っています。

(左)4~6月の講座『未来にうけつぎたい日本の神話』(右)6月の講座『だれでも出来る殺陣入門』
※1 ゲームクリエイター・マーケティングプロデューサー。1995年『Dの食卓』で「マルチメディアグランプリ’95受賞。その後アメリカE3での「Best SATURN GAME OF E3」など多くの受賞作品を制作。その後株式会社フロムイエロートゥオレンジを設立。世界初のIT飲料自販機C-Modeの企画開発など、数多くのマーケティングプロジェクトを実施。

※2 創発型コンサルティング事業開発・コンテンツ事業開発・デジタルソリューション事業の3事業を柱に、デジタルコミュニケーションにより社会に貢献する未来創造企業。2013年度より「学び」のためのニューラルネットワーク形成事業を展開し、実績あるデジタルプラットフォームの領域にとどまらず、ポップカルチャーにいたるまで、様々なジャンルのアートが出会いにより生まれる次世代カルチャー創生の「場所」と「時」の提供を目指している。
http://www.fyto.com/

※3 ベンチャーキャピタリスト・実業家。MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長。PSINet Japan、デジタルガレージ、インフォシーク・ジャパンなどを起業し、現在はクリエイティブ・コモンズ議長、Mozilla Foundationボードメンバー、NY Times 社外取締役、オープンソース・イニシアティブ(OSI)名誉委員も務める。

 

7月の講座紹介&PICK UP

7月13日(土)開催

『未来にうけつぎたい日本の神話』
詳細>>http://setagaya-school.net/old/Event/7969/

爆笑!久住昌之スライドショー&ライブ@イルカの学校
詳細>>http://setagaya-school.net/old/Event/7973/

7月20日(土)開催

夏野菜でグリーンスムージ—つくり
詳細>>http://setagaya-school.net/old/Event/7761/

お持ち帰りキットでアナタも占えちゃう手相講座
詳細>>http://setagaya-school.net/old/Event/7960/

ビール博士・藤原ヒロユキと嗜むクラフトビールの世界
詳細>>http://setagaya-school.net/old/Event/7954/

7月27日(土)開催

美的革命「フリーエイジング」で美しく生きよう!
詳細>>http://setagaya-school.net/old/Event/7983/

絵画のような書を飾ろう〜夏休みに芸術だ!〜
詳細>>http://setagaya-school.net/old/Event/7674/

夭折の鬼才「飯野賢治を学ぶ。」
詳細>>http://setagaya-school.net/old/Event/7978/

PICK UP:サエキけんぞうの「POPジャパン特訓セミナー」②(7月13日開催)

ミュージシャンであり、作詞家、音楽プロデューサーとしても活躍するサエキけんぞう氏を講師に迎え、毎回ゲストを交えて「日本のポップ・ミュージック」を解析していく人気講座。7月の第2弾では、1960年代に世界に先がけてアイドル文化を確立したフランスの驚くべき先駆的ポップ文化を解き明かし、日本のアイドルのルーツを探求。未来のアイドル文化を予測します。

詳細>>http://setagaya-school.net/old/Event/7669/

Message by サエキけんぞう

情報がデジタル化され、メディアの集積が起こっていくプロセスの中で、音楽を情報として捉え、そして語るということが意味を持ってくるようになりました。私が1990年代後半から新宿のロフトプラスワンで行っていた「コアトーク」(現在も不定期で開催)は、そういった音楽を語るイベントの最初のものでしたが、実は日本は、音楽カルチャーの分析や読解に関して間違いなく世界の先進国なんです。イルカの学校のセミナーでは、実際に音楽をかけたり映像を流しながら、インターネットには書かれていないことや、あるいはネットに出ていたとしてもバラバラに存在しているものをつなげたり、認識を新たにするようなことを講義していきます。第2回目のテーマはずばりアイドル。アイドルとは何を目的にやっているのか、やるべきなのかを歴史的に紐解きながら解読していきます。これを知っていたら実際のアイドル本人にとっても精神衛生上いいんじゃないかと思うんだけどなぁ(笑)。

サエキけんぞう氏