しまおまほ「マイ・リトル・世田谷」

1 チューインキャンディー

今も昔も、何処かへ通うことになると、目的地への途中に寄り道コースを設ける。毎回同じ店で、だいたい同じ物を買うのが良い。

毎週のレギュラーで通うラジオ局。赤坂駅近くの売店「OMO」でプリンを買うのが好きだった。プリンだけが入っている小さなビニール袋をプラプラと下げてビルに入り、打ち合わせなど済ませた後に建物の中にあるコンビニでセルフコーヒーを入れ、出番までの時間をコーヒーとプリンで満たす。「好きだった」と、したのは、もう「OMO」にプリンが置いていないからだ。仕方ないから、今はコーヒーを入れるついでにシュークリームを買ったりしている。

毎回店を変えるほどの時間もないし、新しいデザートを次々と試食する冒険心もない。同じ曜日に同じ時間、同じ場所で同じ寄り道。それがわたしにはとても贅沢な楽しみに感じる。

中学生の頃に通っていた桜上水の英語塾へ行くにも、決まった寄り道コースを辿っていた。下高井戸駅にある売店。そこではヨーグルト味のチューインキャンディーを買うのが決まりだった。

「おやつなら、果物があるでしょ」

「お菓子食べたらご飯が入らなくなるわよ」

家でいつも聞く母の小言が頭に浮かび、後ろめたさとともに商品の向こうで座ったままのおばさんにお金を渡す。

世田谷線から京王線に乗り換え、桜上水まで一駅。その間に一つ、口に放り込み、駅から塾までの道程でもう一つ、大急ぎでクチャクチャと。

口いっぱいに甘ったるいヨーグルトの味がまとわりついたまま、授業を受ける時のほんの少しの不良気分。教科書を開いていても、書き取りの練習をしていても、テストの日も、わたしのカバンの中にはヨーグルト味が息を潜めている。少人数のクラスで、他校の生徒となかなか馴染めなかったわたしの気持ちを、食べかけのチューインキャンディーが小さく支えてくれた。

塾では授業が終わると、しばらく先生の話に付き合わされた。

先生は30代前半の女性で、なぜかアノ日になると

「今日アンネでサ……」

なんて生徒にわざわざ報告する人だった。ちっとも共感ができない先生の身の上話は、先生の気が済んだ適当なところで打ち切られ、中学生たちはすっかり暗くなった夜の街に帰される。

わたしはすぐにカバンに手を入れて、また口の中をヨーグルト味でいっぱいにする。家に帰るまで、エンドレスで噛み続けた。

そしてまた次の週も同じ場所で同じおばさんから、この甘い味方を手に入れて塾へ向かう。そんな日々を、2年くらい過ごした。

しまおまほ(島尾・真帆) 1978年生まれ、豪徳寺在住。多摩美術大学芸術学部卒業。ファッション誌やカルチャー誌にマンガやエッセイを発表。著書に『まほちゃんの家』『ガールフレンド』など。両親はカメラマン、祖父母は作家の島尾敏雄・島尾ミホ。