世田谷ものづくり学校

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世田谷ものづくり企業探訪 vol.7 | 株式会社WAKAZE(世田谷区三軒茶屋)

[前編]日本酒を世界酒にする、発酵ギーク集団WAKAZEの酒造り 〜日本酒業界に吹く新しい風〜

取材記事「世田谷ものづくり企業探訪」は、ものづくり学校の事務局スタッフが世田谷区内の様々なエリアに根付く「ものづくり」の場へ訪問し、事業者のインタビューをおこない「世田谷のものづくり」の特徴やそれに関わる人々を発信していくシリーズです。

取材・文:石塚 和人(IID 事務局)

今回の「世田谷ものづくり企業探訪Vol.7」はIID 世田谷ものづくり学校がある三宿のお隣、三軒茶屋が舞台。

株式会社WAKAZE(ワカゼ)さんを知ったきっかけは、SNSのタイムラインに流れてきた、あるNOTEの記事でした。
そこには「なぜ三茶で酒蔵を創るか」という問いに対するWAKAZEの代表・稲川さんの熱い答えが、冷静な市場分析、創業後のぶっちゃけ話などと一緒に綴られていました。文末には事業資金の支援を募るクラウドファンディングへのリンクも。

それ以来彼らが造る日本酒が気になって仕方なくなり、ついに先日店頭まで足を運ぶことに。そこでの試飲でさらにWAKAZEファンになり、あらためて取材を申し込むことになったのが今回の経緯です。

取材当日は、WAKAZEが三茶で運営するガラス張りの醸造所に併設された直営バル「Whim SAKE & TAPAS(ウィム サケ&タパス)」を訪問することに。

ちなみにこのお店は、酒造りの様子を眺めながら、お酒と料理を楽しむ他愛もない会話の中で新しい1歩を踏み出すきっかけになるような、「Whim(ウィム)」=「ちょっとした思いつき」が生まれるお店を目指しているとか。
この日、代表の稲川さんは現在準備中のフランスの醸造所に滞在中とのことで、「Whim SAKE&TAPAS」飲食担当の米山さんと、広報の関さんにご対応いただきました。
石塚 今日はよろしくお願いします。代表の稲川さんはしばらくフランスの醸造所の立ち上げで忙しそうですね。
 
関さん 現在、スタッフ4名がフランスに滞在しています。向こうでは着々と準備が進んでおり、毎日情報が飛び交っています。 こちらの三軒茶屋醸造所の200L 4基よりも大規模で、2,500Lのタンクを12基ほど備えています。
 
石塚 それはかなり楽しみですね。またその辺は後ほど詳しく聞かせていただくとして、まずは創業の経緯あたりから伺っていいでしょうか。
向かって左が酒造り担当の戸田さん、右が飲食担当の米山さん。
店舗入口に並ぶWAKAZEの日本酒たち。

はじまりは週末起業から

米山さん 会社としての株式会社WAKAZEは2016年1月に創業しました。 ただ創業以前から、チームWAKAZEという4名ほどの週末起業のような小さな集まりがあり、そこからWAKAZEはスタートしたんです。清酒造りを新たに始めるのは今の日本では難しい、そしてそれを解決する方法は一人では難しいよね。でも何かお酒でやりたいね、みたいな課題をチーム内で持っていました。
   
石塚 チームはどういったメンバーだったんですか?
    
関さん 代表であり発起人の稲川、そして日本酒の造り手で酒蔵の三男である今井に加えて、もう2人ほどメンバーがいました。稲川、今井以外の2名は現在日本酒造りとは違うことをしています。
   
米山さん 最初から日本酒を作るつもりではなく、日本酒で面白いことができないか、という集まりだったようです。そんな集まりを重ねるうちに、どぶろくバルやったら面白いよね、とかそんな話が出てきたり。
   
石塚 ちなみに、今井さんの実家はどちらの蔵なんでしょうか?
   
米山さん 群馬県の「聖(ひじり)酒造」さんです。とはいえ。最初今井自身は酒蔵を継ぐつもりはなかったようで、当初は酒造りはやっておらず別なところに就職をしていました。
    
石塚 WAKAZEさんの本社が山形なので思わず勘違いしてましたが、山形で事業をスタートしたわけじゃないんですね。
    
米山さん 山形がでてくるのは実はもうちょっと先になります。チームWAKAZEとしていろんなプロジェクトを動かしつつ、途中で稲川1人で会社として立ち上げたわけです。
    
関さん その少し後にもう1人の取締役である岩井慎太郎というメンバーが仲間になります。
     
米山さん 当時、もちろん会社として成長はしていたのですがスタートアップ事業としての大きな成長を狙うにあたり、代表の稲川が少し悩んでいました。そのタイミングで参加した慶応のOB会の飲み会で「山形の鶴岡には成長しているスタートアップがたくさんあるし、OBも沢山いるのでお前も山形に来い」って冗談で言われたらしく(笑)。
   
石塚 それはかなり突然!!(笑)
    
米山さん それに対し稲川は本気で「行きます」って答えたそうです。その他の理由としても、豊かな食の文化が根付いている山形という場所に魅力を感じていたとか。また当時からフランスに醸造所をつくる目標があったわけですが、日本でいったらフランスに近いのは山形だ、という意識もあったみたいです。また奥田さんというシェフが運営する「アルケッチャーノ」という庄内地方の食材を使うことで人気のレストランもあります。
     
石塚 パリ=山形庄内説ですね。
    
米山さん また山形は貴醸酒*1 の開発に関わった蔵があったという経緯もあります。その醸造方法がワイン樽熟成を使うWAKAZEの酒造りのスタイルに合っていたんですよね。そんな理由もあり、山形の酒蔵に委託醸造*2 をお願いすることになります。

*1:水の代わりに酒で仕込んだ酒で、独特のとろみのある甘口の日本酒
*2:酒蔵以外の企業などが酒を企画し、酒造りを依頼すること

    
石塚 既存の酒蔵に外部の人が醸造をお願いできるものなんですか?
    
関さん 日本酒業界では委託醸造はあまり一般的ではないと思います。むしろ異例ですね。
     
米山さん ちなみにうちの商品の「GAIA(ガイア)」と「LUNA(ルナ)」は山形県の「渡會(わたらい)本店」さんに委託醸造という形で製造をお願いしています。日本酒って、その土地や酒蔵によって得意な味があるんですよね。山形は芳醇旨口という感じで甘みがある酒が特徴。

一方「SOL(ソル)」は千葉県の酒蔵である木戸酒造さんに醸造をお願いしています。木戸泉さんはどちらかというと酸味系が得意な酒蔵ですね。
    
石塚 業界では一般的ではないんですね。なのになぜWAKAZEさんの委託醸造は受けてもらえたんでしょうか?
     
米山さん それは稲川が熱量ありすぎる人間だからでしょうか(笑)。とにかく膨大な数の酒造に依頼して断られています。もともと稲川はマーケティングのプロなので、色々事前に下調べをして行くんですが、それでも断られています。

そしてもう一つの理由は、WAKAZEに今井という造り手がいたこともあります。山形も酒蔵は多いんですが、現在では減少傾向にある中で、酒蔵側も後世に酒造りを伝えたいという思いはあったはず。
そこに造り手と熱をもった人間が来たので、渡會酒蔵も「おまえらみたいなのがそこまで言うのなら」という感じで引き受けてくれたんだと思います。
   
関さん そこからうちの稲川は山形に一軒家を借りて、酒造りを勉強し始めました。酒造りの季節には今井も現地に行って一緒に勉強させてもらったりもしましたね。
   
石塚 ちなみに稲川さんと今井さんはどう出会って、なぜお酒を造ろうと思ったんですか?
   
米山さん たしか知人を通しての紹介だったと聞いてます。もともとは自分たちで日本酒を造れるとは思ってなかったみたいですが、2人がチームWAKAZEで話しあう内に、次第に日本酒を造ろうという方向になったわけです。

そんなわけで二つの酒蔵の協力を得て、ワイン樽熟成日本酒ORBIA「LUNA」と「SOL」をリリースすることができたのが2017年の3月でした。

その後、レストランなどに持ち込んだり、お酒の海外アワードである「IWC(インターナショナルワインチャレンジ)などにも出品して賞をいただきました。
   
ワイン樽熟成日本酒「ORBIA(オルビア)」のラインナップ。
店舗の棚に並ぶ海外アワードの受賞認定証やトロフィー。
石塚 実績がない最初の出品から受賞するのはすごいですね! その辺はやはりリサーチなどをして戦略的に出品しているんでしょうか?
     
関さん ブラインドテイスティングでの審査なので実績は関係ないんです。またマーケティングの話でいうと、複数のソムリエへのアンケートを取ってから味の方向性を決め、それに基づいた味の設計をしています。WAKAZEは日本酒でワインの市場を狙っているので、洋食に合う日本酒を前提に製品づくりをしています。もちろん味だけでなくボトルやパッケージなどのデザインも含めて洋風にしています。

デザインに関しては、チームWAKAZE創立の頃からのデザイナーさんも協力してくれていて、商品だけでなく店舗の内装なども合わせてトータル的にデザインしています。
社員が1人しかいない時期から外部から支えてくれる人たちの存在のお陰で、私たちWAKAZEは色んなことを実現できているんだと思います。
   

酒造りで毎年「事件」を起こす

石塚 本当に繋がりの力は大きいですね。そしてここまでぎゅっと凝縮して話を聞いているせいか、なんだか順調すぎるくらいに目標を達成している感じがします。
   
米山さん 1年目に山形へ行き、2年目にORBIAブランドの酒をリリース、3年目に三軒茶屋醸造所と醸造所併設バル「Whim SAKE & TAPAS」をスタート。そしてついに4年目にはフランスに醸造所をつくりました。毎年なんらかの事件を起こしている感じですね(笑)。
   
石塚 きっと外からはわからない苦労もされているとは思いますが、この期間でこれだけのことをやってのけるのは本当にすごい。そして気になるのは、鶴岡という場所を本社に選んだ理由についてです。

たしか鶴岡には、慶應義塾大学先端生命科学研究所などのスタートアップを支援する施設があり、スパイバー株式会社*3 を代表として話題のスタートアップ企業がひしめいています。その影響もあったんでしょうか?それともやはり庄内地方の食や酒蔵のある場所としての文脈の方が強かった?

*3:世界初の合成クモ糸繊維「QMONOS」の量産化に成功したことで有名な繊維企業
   
米山さん おそらく最初は慶応やスタートアップ文脈の方が強いですね。鶴岡の商店街の2階にはコワーキングスペースのようなオフィスがあって、そこを本社としてました。周囲にも面白いスタートアップ企業のオフィスが色々あります。
   
石塚 そうなんですね。そういえば今は何名のスタッフがいらっしゃるんですか?
   
米山さん 1年前までは4、5人の会社だったんですが、今では14名になりました。うち4名はパリ醸造所の立ち上げでフランスにいます。
   
石塚 スタートアップらしい成長だと思います。ちなみに先ほどアワードに関しては実績が関係ないというお話がありましたが、商流に関してはどうですか?実績のない時点だと酒造の商流の開拓って大変じゃないんでしょうか?
   
関さん 酒屋さんに対しては、今井の実家の聖酒蔵であったり、色々な酒蔵との繋がりの中でご紹介いただきました。
   
米山さん 商流の話との絡みで言うと、うちみたいな直営店と醸造所が一緒になっている場所は珍しいんです。そのせいかお客さんも「何か新しいものできた?」 みたいな感じでお店にきてくれる。最近では蔵元杜氏のような、造り手と経営者が一緒になっている酒蔵も少しずつ増えました。でもWAKAZEみたいなスピードで新しい酒をつくりだしている蔵元は少ない。なのでお客さんに対するアプローチは他の酒蔵とはかなり違うと思います。

このところWAKAZEのお酒の取り扱いも北海道から九州まで増えたので、地方の飲食店でうちのどぶろくを飲んでくれた方やイベントで見かけたお客さんが全国からこの店に足を運んでくれるようになりました。

業界の壁を壊す「日本酒ベンチャー」

石塚 ここまで聞くとかなり順調そうなWAKAZEさんですが、その過程で何か大きな苦労や難しい部分なんかはありましたか?
    
米山さん 日本酒業界では委託醸造が主流ではないという壁がまずありました。ただそれを解決する過程で、この醸造所ができたことは本当に大きかったです。

ちなみに「ボタニカルSAKE」はお米とお水以外の材料を日本酒の造りの過程で、お米とお水以外のフルーツやハーブを加えるので、法的に日本酒とはみなされません。なのでラベルの品名として「清酒」や「日本酒」とは書けず、酒税法上は日本酒ではなく「その他の醸造酒」になるんです。
なので「変わったお酒をつくっている酒蔵」とみなされることも多いんですが、その上でもこの醸造所があることは大きい。やはり自分たちの技術で美味しいお酒を安定してつくっている、という事実が何よりも突破口になっていると思います。

また日本では需要と供給の調整の意味もあって、日本酒の消費量が減っているのに、新規酒造免許がおりて酒蔵が増えたら、既存の酒蔵が打撃を受けるということも一つの理由として新しい酒造免許は一切おりないようになっています。それが何よりもの壁。

WAKAZEはその兼ね合いで、当初は委託醸造というやり方をみつけました。「清酒」という枠ではなく「その他の醸造酒」という枠で自分たち自身で酒造りをなんとかできないか、というのがこの段階です。
ただこれは酒造りの手法としてはかなりリスキー。ふつうは発酵中に雑菌が入ってしまうと致命的なので、非常に気を使います。なので発酵中に何か違うものを入れるなんて既存の酒蔵からしたら「お前ら何やってるんだ」って感じなわけです。

ここでまた山形がでてきます。

秋田県の「新政酒造」さんで造り手の今井が2年修行したんですが、そこは白麹を日本酒に使うのが得意。(※普通日本酒は黄麹を使うことが多い)
そこで今井が学んだ技術を酒蔵さんにつなぐことで、商品開発ができています。
     
石塚 酒蔵さん側もそうやって協力してくれるわけですから、彼らも業界的な危機感や新しい風を入れる意思をもっているということでしょうか?
   
米山さん そういう気持ちがないと、酒蔵や業界が続かないという意識は持っていらっしゃいます。そんな経緯で「その他の醸造酒」という解決策により「FONIA(フォニア)」ができたわけですが、「これは日本酒です」とは言えないわけです。
でも「ちゃんと日本酒のつくり方をしてますよ」って言いたい所もあるので、そのあたりはちょっと複雑な気持ちですね。
ボタニカルSAKE「FONIA(フォニア)」のラインナップ。
石塚 お話を聞いていると、WAKAZEさんの挑戦によって日本酒業界がどんどん面白くなっていくのではという期待を感じます。こういったWAKAZEさんの新しい挑戦に共感している方々は他にも業界の中にいるんでしょうか?WAKAZEさんに近い思いを持っている人たちというか。
    
関さん 今、私たちWAKAZEの他にも「日本酒ベンチャー」と言われる若い世代の造り手が日本酒を広めようとしていたり、日本酒についての情報を消費者に発信する新しいWebメディアなどもあります。
   
石塚 なるほど。まさに今、日本酒業界に新しい風が吹き始めているわけですね。

(後編へ続きます)

参考リンク

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