世田谷ものづくり学校

REPORT

世田谷ものづくり企業探訪 vol.7 | 株式会社WAKAZE(世田谷区三軒茶屋)

[後編]日本酒を世界酒にする、発酵ギーク集団WAKAZEの酒造り 〜醸造所づくり、そして海外へ〜

取材記事「世田谷ものづくり企業探訪」は、ものづくり学校の事務局スタッフが世田谷区内の様々なエリアに根付く「ものづくり」の場へ訪問し、事業者のインタビューをおこない「世田谷のものづくり」の特徴やそれに関わる人々を発信していくシリーズです。

取材・文:石塚和人(IID 事務局)

インタビュアーが偶然読んだ株式会社WAKAZE(ワカゼ)代表・稲川さんの記事をきっかけに、始まったこの取材。前編では設立経緯や酒造りまでの道のりなどをお聞きしました。
後編では、拠点として三軒茶屋を選んだ理由、海外展開への挑戦についてお伺いします。

スタートアップで盛り上がる日本酒業界の魅力とは

石塚 日本酒ベンチャーの企業、もちろん稲川さんやWAKAZEスタッフも含めてですが、今こういった若い世代の方々は、日本酒業界のどういう部分に可能性や魅力を感じて集まってきているんでしょうか?
   
米山さん それはやっぱり「日本酒が好き」ということに尽きると思います。今の若い人はお酒を飲まないとよく言われますが、やっぱり一部好きな人はいる。

あとはクラフトビールやクラフトジンもそうですし、ナチュラルワインなどのニューウェーブ的な潮流もあります。言い方はあれですが「全酒的」に新しい流れがきていると思います。そういったいろんな流れがある中で「日本酒って面白いよね」って感じる人が増えてきているのではないでしょうか。

もう一つは「酒蔵」って特殊で、かつて街に1軒あった蔵が地域の文化や景観などを守っていたわけです。酒を飲む飲まないとかではなく、それがなくなるのはヤバイぞという思いもあります。今参入してきている企業やプレイヤーは色々調べているので、ある程度勝ち筋は感じているはずなんですが、万が一ビジネス的に勝てなくても「酒蔵を残していく」ということに皆なんらかの意義を感じ、熱量を持って動いている方が多いと思います。

ありがたいことに、それを助けてくれる酒蔵さん、売ってくれる酒屋さん、飲んでくれるお客さんがいて、ぼくらは酒造りを続けられているんですよね。もちろん続ける為に収益をあげるという部分もあるんですが、シンプルに美味しい酒を作りたいっていう思いの方が強い。

この業界はみんな人生賭けてこの業界に飛び込んできてますよね。とくに安定保証はされていない世界なので、それぞれが面白い文化やお酒を残していければと思っているんじゃないでしょうか。
   
石塚 一方、関さんはどうでしょう?
     
関さん やはりまず最初に日本酒が好きというのはありますね。
クラフトビールのパブやワインバルなども増えて、日本中いろんなお酒を飲める所は増えました。ワインやビールは日本生まれではないのに、日本中どこでも飲めるようになっている。でも日本酒はなぜ日本でしか飲めないのか、なぜ海外での認知度がまだまだ低いのか、という疑問があります。
     
石塚 日本酒は造り方が繊細だったりとか、酒造りに必要な風土などの要因もあるんでしょうか?
   
関さん みんなそう思い込んでしまっている、ってことがあるのかもしれません。実際造り方は繊細なんですが。また海外では値段が高いという問題もありますね。海外にも酒蔵は増えてきて、すでに30以上はあります。ただそれらが日本では認知がされていないですね。
   

三軒茶屋での場作り

WAKAZEが運営する醸造所が併設された直営バル「Whim SAKE & TAPAS」。
石塚 もう一度WAKAZEさんのお店「Whim SAKE & TAPAS」にフォーカスしますね。WAKAZEさんにとって、店舗ってどういうものなんでしょうか? 店舗を持たないっている選択もあったはずですが、最初から出店の計画があったんでしょうか?
   
米山さん もともと計画はなかったですね。うちの会社は思いつきから実行が早いのが特徴で。飲みながら打ち合わせしているうちに「フランスに醸造所をつくる前に、どぶろくバルをつくったら面白いよね」みたいな話になったんです。そこからすぐ物件を探して免許もとって。

そして稲川がリサーチした上で、代々木上原と三茶の2つが候補に挙がってきました。
    
石塚 どういう要素からその二つの街だったんですか?
   
関さん 新宿や渋谷からアクセスがよくて、飲む文化、食べる文化がしっかりしていて、どぶろくバルをやったら話題になりそうな場所。そういう分析でその二つの街でした。あとは直感の部分も大きかったみたいで。

実は三茶は水を汲める地域の湧き水があるんです。うちの杜氏が「昔に茶屋があったくらいだからあるだろう」って探したらやっぱりあったそうで、たまたま水質も酒造りにちょうど向いていたとか。

その後、実際に代表とデザイナーが三茶の街を歩いていたら、偶然スケルトンの物件があって、「これだ!」って。
    
石塚 面白い!三茶という場所を選ぶ上での経緯にストーリー性を感じます。
   
米山さん その後2018年7月にようやく今井が修行から戻ってきて入社して、その後2019年11月に念願だったフランスの醸造所がスタート。これでようやく海外産ではありますが、社内で清酒をつくれる環境が整ったわけです。
    
石塚 お店をつくって変わったことは?
    
米山さん WAKAZEスタッフとしては、やはりお酒を自分たちで醸造できる場所ができたというのが大きかったですね。今井は特に嬉しかったみたいです。

おそらくお客さん側としても集まれる場所ができたのは大きいと思います。

あとは業界的には「醸造所って作っていいんだ?」っていう衝撃もあったみたいです。もちろん清酒の醸造所ではないんですが「どうやって造ってるの?」って感じで見にくる方も多い。私たちを見学に来て真似しようとしてくれる人も居ます。
    
石塚 ということはWAKAZEさんでは、同業者に真似をしてもらうのは歓迎ということですか?
   
関さん それは全然OKですよ。WAKAZEはファーストペンギン*4 になりたいんです。「あいつらがやってるんだったら」っていうふうに思ってくれたら有難い。WAKAZEは業界を変えるのが目標なので。

*4:集団で行動するペンギンの群れの中から、天敵がいるかもしれない海へ、魚を求めて最初に飛びこむ1羽のペンギンのこと。転じて、その“勇敢なペンギン”のように、リスクを恐れず初めてのことに挑戦するベンチャー精神の持ち主を、米国では敬意を込めて「ファーストペンギン」と呼ぶ

実はWAKAZEのロゴも、そういった意味が込められたデザインになってます。
丸は地球や業界、日の丸など複数の意味を持たせ、既存の業界に光が差し込むような抽象的なデザインになっています。

あとはこんなに日本酒や日本酒造りに興味がある人がこんなにいるんだ、という状況が目に見える場所ができたという意味も店舗にはありました。今井を始めとした造り手もその様子を現場で目にするのが嬉しいみたいです。
   
株式会社WAKAZEさんのロゴ。

日本酒を世界酒へ

石塚 そういえばフランスの醸造所も立ち上がったばかりですが、その状況はどうですか?
    
関さん 毎日フランスから写真があがってきます。2019年の年明けから代表が現地入りして物件探しから準備をしていました。現在では、今日は米を蒸したとかいろんな進捗報告があります。10月1日が日本酒の日だったので、その日からフランスで醸造開始をしたいと思っていたのですが、物件探しなどで色々遅れてしまいました。
    
石塚 稲川さんは過去2年間フランスに留学されていますが、やはりその時の経験も生きているんでしょうか?
   
関さん それはあると思います。フランスはフランス語ができないとビジネスにならないみたいです。
   
石塚 ここまでWAKAZEさんの様々なチャレンジの話を聞いてきましたが、もし差し支えなければ、その際に必要になる資金の調達方法について教えてください。
   
関さん こちらはニュースにもでたのですが、2019年5月にスパイラルベンチャーズ、ニッセイキャピタル、株式会社中島董商店、日本政策金融公庫、他4名の個人投資家から1.9億円の資金調達をしました。

これはフランスに醸造所を作る上での資金調達という意味合いが強いです。またそれだけ皆さんがWAKAZEの酒造りに期待してくれているということかもしれません。
   
石塚 その期待に応えるべくいろんなことを考えていらっしゃると思いますが、株式会社WAKAZEのこれからの展開は?
   
米山さん 代表の稲川はアルコール業界で一番の革命を起こすという想いで事業をしています。最終的には世界の各大陸に一つずつ醸造所をつくることが目標ですね。
   
石塚 素晴らしい。夢がある目標ですね!

人生に、ワクワクを仕込もう

石塚 お話を聞いていてて本当にこれから楽しみです。そして最後に聞きたいのですが、お二人はWAKAZEはどんな会社だと思ってますか?
    
米山さん 「人生にワクワクを」とサイトにも書いていますが、周囲にワクワクするね、夢しかないね、と言われるような会社だと思っています。

ぼくらもお客さんがワクワクしてくれることが、自分たちにとってのワクワクですし、そのワクワクの最前線にいられるというのがこの会社にいて一番楽しいこと。イベントや試飲会でも自分たちのお酒を顧客に手に取ってもらえるのはすごく嬉しい。

そしてWAKAZEにはお客さんをワクワクさせることに喜びを感じるスタッフが多くいます。そういう仲間が沢山いるのは楽しいですよ。そしてそのお客さんをワクワクさせるお酒を一番最初に飲めるのはもちろん僕たちです(笑)。

とにかくお酒造りはめちゃくちゃ面白い。
   
戸田さん ここまでいろんな話をしましたけど、やはり我々が行き着くところは「ものづくり」です。
どうしたってそこが一番大事。マーケティングや過程も含めてものづくりとしてちゃんとしているかってことも含めて。そして自分たちでつくったお酒を自分たち自身がちゃんと好きでいられるかってのは最重要だと思ってます。
   
石塚 ありがとうございます。ついに最後に「ものづくり」というワードが出てきました。法律とか日本とか世界とか、いろんな話が出ましたが、最後には話がぴたっとそこに戻ってきた感じですね。今日は本当に楽しい時間を有難うございました。
   

この取材のあと数日経って、この記事を書きながらWAKAZEさんの挑戦によって日本酒の業界がどう変わっていくのかをあらためて考えると、本当にワクワクさせれました。

そしてこれは後日聞いたことですが、社名の「WAKAZE」の由来には2つあるそうです。

一つ目は東北地方の方言で「酒蔵の若手」を意味する「若勢(わかぜ)」という言葉。

二つ目は「和の風」という意味。

まさに今回取材でえ聞いた全ての答えとスタッフの思いが社名にぎゅっと込められている。そんな印象。

これからもこのWAKAZEの皆さんの挑戦に期待しつつ、三軒茶屋を訪れた際には彼らの日本酒をじっくりと味わいたい、そう思いました。

参考リンク

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