世田谷ものづくり学校

REPORT

世田谷ものづくり企業探訪 vol.10 | よりあい商店[松陰神社前商店街]

昔ながらの寄り合いの良さを現代に。
松陰神社前「よりあい商店」流、店と顧客の新しい関係

取材記事「世田谷ものづくり企業探訪」は、ものづくり学校の事務局スタッフが世田谷区内の様々なエリアに根付く「ものづくり」の場へ訪問し、事業者のインタビューをおこない「世田谷のものづくり」の特徴やそれに関わる人々を発信していくシリーズです。

 

取材・文:石塚和人(IID 事務局)

今回焦点を当てたのは、世田谷線の松陰神社前。そして世田谷ものづくり企業探訪としては初の商店街に対する取材です。
世間がコロナ禍の真っ只中だった今年の4月。松陰神社前の3つの飲食店を対象に、あるローカルな試みがスタートしました。

個性的な飲食店が集まった松陰神社前商店街をコロナ禍から救う為、立ち上がった常連顧客と店舗が、最新のモバイルオーダーの仕組みを導入した結果、何が起こったのでしょうか?

東京の緊急事態宣言解除から10日ほどが経過した6月4日に、よりあい商店の発起人である道山智之さんと、松陰神社前の 牡蠣とおばんざい の居酒屋 「マルショウアリク」店主の廣岡 好和さんのお二人にオンラインで伺いました。

「よりあい商店」立ち上げの思い

道山さん(以下短縮で「道」):コロナの状況がどんどん悪くなっていく中、常連としてはヨッシー(=廣岡さん)大丈夫かな、と心配していて「俺たちがどげんかせんといけん」と思っていたんです。

そんな時、たまたま知人が「テイクアウトに対応できるモバイルオーダーのプラットフォームを開発しているIT企業の社長さんがいるので紹介してあげるよ」と言ってくれました。
それが今回協力いただいた株式会社Showcase Gig(ショーケース・ギグ)というベンチャー企業。
彼らが提供するのが店と顧客の接触時間が少なく済むモバイルオーダーのプラットフォーム。その社長もちょうどこの状況に対して何かをしたいという思いがあり「じゃあ一緒にやろう」ということに。
上部向かって左がよりあい商店発起人の道山さん、左がマルショウアリク店主廣岡さん(通称ヨッシーさん)


:導入に際しては、こちらからも色々とアイディアメニューの提案をしました。例えばボタン一つで近隣の別な飲食店からのメニューをお取り寄せしたり、店のスタッフに感謝の一杯を奢れるようにしたり。
これはITで古き良き昭和のスナック内の常連同士や、同じ商店街の飲食店同士のやりとりを一見さんや一般の人にもできる仕組みを実現する社会実験をしませんか、という僕からの提案でした。

そういう経緯で4月上旬にプロジェクトがスタートしたのですが、今回何よりも重視したのはスピード。

本来、僕は慎重派ですが、同時期に様々なサービスが立ち上がる中で、自分たちのサービスの特徴を見定めながら、急遽集まってくれた信頼するスタッフと力をあわせて3週間でサービスを立ち上げました。

なぜそんなに急いだかというと、ひとつシステムを立ち上げれば、出身地の福岡をはじめとして、それを全国に広げていけるのではと思いました。それが信号弾のようになって、全国の飲食店の方々に「なんとかなるよ!」というメッセージを伝えたかった。

石塚(以下、石): 道山さんの熱い思いがすでに伝わってきますね。4月上旬から3週間で立ち上げて4月28日にサービスインしたそうですが、スタート後の顧客の反応は?

:加入してくれた店舗にもよりあい商店のポスターを一斉に貼ったせいか「なんか面白い事をやってる」という感じでお客さんが集まってくれて。ポスターを店の前に貼ったあと、店主達が皆いい顔をしていて少しだけほっとしたんですよね。
実はよりあい商店のロゴは水引きをモチーフにしているんですが、お店同士、お客さん同士の助け合いの縁を結ぶというコンセプトがあります。「コロナめ!」と向きあうのではなく、何気ない日常を祝うことで状況を盛り返そうという感じ。

マルショウアリク店主
廣岡 好和さん
All About My Croquette 店主
田窪 史絵さん
bar オルガ 店主
高橋 卓さん

「よりあい商店」が開いた新しい扉

:今回採用したのはITツールですが、コンセプトに温かい思いが感じられますね。次に店舗側で感じたお客さんの反応をマルショウアリク店主の廣岡さんにお伺いしたいです。

廣岡さん(以下短縮で「廣」):この試みの結果を検証すると、決して利用者が右肩上がりになるというわけではなく、反応はゆっくりとした感じ。もちろん店側もテイクアウトを続けていけばそっちに注力していくわけですが、今回って状況が刻々と変化するじゃないですか。

緊急事態宣言発令後と解除後では状況が急変するので、店側も顧客側もお互いに態度を決めかねていたんです。特に大きく変わったのは先週の解除後。今は店舗営業を通常に戻しながら、今までのテイクアウトもやめるわけではなく、反応を測りながら続けています。

毎週、その結果を各店舗で比較しているわけですが、よりあい商店をスタートしたことによって「新しい窓が大きく開かれたな」と感じました。

そういえば面白かったのは、この商店街に夕方以降もずっと人が歩き続けるという現象がありました。松陰神社前の特徴は小さなベッドタウンであること。つまり普段は夜にあまり人が出歩いていない街。
でも今回の事態で地域内外の人たちが滞留している状況だったので、テイクアウトのお弁当を並べると結構売れていく。なので今回はこういう形の提供方法もあるんだな、という気づきがあった。

あとはよりあい商店というサービスができたことで、そういうアプリに慣れている人にはコミュニケーションツールとして案内をしました。一方アナログな人達も3密を避ける為に大きいスーパーから小さな商店街に移動してきて、そこに更に電車を使わずに移動してきた人が商店街に滞留する状況になったんです。

:ユーザー数が一気に伸びているわけではなく、質的な変化が起きている。新規の方が顧客になってくれているというデータもありますし。
それから「未来の予約」という形で、飲食店を支援する将来の予約分のお金を先に払えるシステムもあります。そういった形でクラウドファンディングより気軽な支援ができる。そんな「人と人が繋がるきっかけ」があちこちで起こっている。
宣言解除後の現在はイートインとテイクアウトが入り混じってきているので、そこでモバイルオーダーを利用して、営業をスタートした近所の他店舗に料理を届けてあげるとか、複数の店舗のメニューを一緒に混ぜて一品つくる「よりあいおせち」というサービスだったり、この事態をきっかけに逆に皆が楽しくなるようなアイディアをたくさん考えています。

ちなみに「モバイルオーダー」というシステムは元々大手向けのプラットフォームだったわけですが、それをあえてこの松陰神社前という人情味溢れる商店街に持ち込んで実験することで、そもそもの飲食店と顧客の関係を考え直すような意味があるわけです。

:お二人の話を聞いていると、今回のよりあい商店によるモバイルオーダーというテイクアウトの試みの趣旨が変化していったように感じます。
宣言解除前は対面のイートインができないのでそれに替わるものをという趣旨だったのが、宣言解除後にはあくまでイートインも含めた選択肢の一つとして、コミュニケーションの可能性を広げる趣旨になっていった、という認識でいいでしょうか?

:その捉え方でいいと思います。

:そういえば常連のひとり、映画監督の加藤秀麻さんが制作したよりあい商店のショートムービー「3分の映画」(翻訳:Jordan A.Y. Smithさん)の中で、加盟店の「オールアバウトマイコロッケ」店主の田窪 史絵さんがこんなことを言っています。

「どんなときも日常を失わないよう。
形は変わっても、
「いつもの街」を、
安心して楽しんでいただけると嬉しいです。」

:この言葉から、僕らにとって今回の試みは人間性を守る営みなんだろうな、と思っています。

:ひとつ廣岡さんに確認なんですが「人の流れが変わった」と感じたのはいつでしょうか。やはり宣言解除後?

:感じていたのは解除前なんですが、解除後も確かに変わりました。東京都のSTEP1として解除されたのが先週で、最初はそろりそろりという感じでしたが、今週(6月の第1週)に入ってガラッと変わりましたね。解除前もこの街に住んでいたのに、これまで街に関わってなかった人達が動き出していました。

:「Stay Home」の雰囲気が一番厳しかった頃、ここ松陰神社前を沢山の人が商店街を回遊している時期があったんです。

:5月はそんな時期がありました。僕はそれをいい意味での「諦め」と捉えたんです。おそらく地域の人たちが遠くに行くことを諦めて、地元の松陰神社前で飲食店を探そうとしたんだと思います。でも日没でさっと人が居なくなる。「真面目だな」と思いました。

そして松陰神社の飲食店側も皆判断が早く、シャープな考え方をしてました。宣言後の閉店の判断も素早かったし、値段を1,000円ちょうどにして接客時間を短くしていたり。もちろん営業時間の制限もきっちり守っていました。そしてお客さん側もそのお店の判断したルールを乱さない。そういうのを見ていて、これがこの街が持っているポテンシャルだと気づいた。

: 面白いですね。日本は法律上ロックダウンができずに自粛勧告という対策をとり、それが世間で賛否両論を巻き起こしました。ただそれが逆に松陰神社前という街の飲食店、顧客双方のリテラシーの高さを浮き彫りにした、ということでしょうか?

:そうですね。当時流れていた他の街のニュースと比較しても、飲食店、顧客共に質が高いなと思いました。マスクがどうとか距離がどうとか、自律的に決まっていきましたね。本当にクールでした。

「よりあい商店」が生み出す店と顧客の新しい関係

:都会でもない田舎でもない、これからの新しい街のイメージですね。そして次に、宣言解除以降によりあい商店として、もしくは1店舗として今後の課題を教えてもらえますか?

:実は「afterコロナ」「withコロナ」みたいな言葉も最近まで知らなくて。最近よく出る「その後」みたいな話って、正直まだよく分からない。

確かにこの二日間でテイクアウトに力を入れていた宣言解除前とは状況が大きく変わりました。一緒にやっているスタッフと、ちょっとテイクアウトが売れなくなってきたよねとか、そんな話をしながら「その時々でどうしようか」と考えてます。一方、今まで訪れたことのない人も来てくれたり、店舗の方も少し今までと違う形が見えてきている。なので一気に切り替えるっていうよりは、様子を見ながら状況に寄り添って行く感じ。

なので店側からすると「その後」って感覚じゃないんです。よく「もう店やってるの?」って聞かれるんですが、店としてはずっとやってたんですよね。でも今まで以上に、売れる売れないとか、話す話さないとか、相手をじっくり見ながらコミュニケーションをとれている。特にさっき話した、この街の店舗と客の「質の高い判断とコミュニケーション」みたいな均衡が取れているのであれば、あまり大きく変わらずにやってけるんじゃないか、という可能性を見出せた気がします。

:世間では「コロナ以前」「コロナ以後」で分けて捉えようとしていることも多いですが、店舗側としてはそれなりに日常が続いていて、いろんな出来事がゆるやかに繋がっていた、ってのが店側の実感だったわけですね。今世の中には閉塞感が漂っていますが、お話にあった松陰神社前の自律的な「質の高い判断とコミュニケーション」からは、とてもポジティブな希望を感じました。

:よりあい商店がまだなかった頃、僕の「常連としてお店を助けたいんだよね」って言葉に対してヨッシーが言ったのが「客も店を支えてるけど、お店も客を支えてる。いわゆる「おたがいさま」ってヤツでしょ」って言葉。
よりあい商店ができてからも常連達がお店を助けようと、店の前で迷ってるお客さんに良かれと思って「いらっしゃいませ」って声をかけていた時にヨッシーがボソッと言ったんです。「うちは『いらっしゃいませ』じゃないんだよね。『こんにちは」なんだよ』って。それを聞いてはっとしました。ここはお客さんと店側が対等なんだと。
あと松陰神社前には店舗と顧客双方に自律的な良い動きがあったという話がありましたが、今の世の中がそういった店と顧客の関係が薄れていく方向にあるとすれば、それをITの力で盛り上げたい。

:いいですね。前の質問からは「自律的」というキーワード、今回の質問からは「おたがいさま」というキーワードが出ました。「自律的」と「おたがいさま」、その二つがあることで、松陰神社商店街にはカウンターを挟んでただの店側と顧客という関係を越えた、対等な目線の関係があるわけですね。

:おそらく松陰神社前には昔からそういう価値観があって、それが若い世代の価値観にも合致したんじゃないでしょうか。

:ちょっと前から思ってたんですが、今まで飲食店は「モノの価値を金額という数字でつける」というルールにのっとって真面目にやってた。でもモノの価値を評価する方向が、顧客から店舗側への一方向なのは不自由だな、という感覚がとっくにあります。そして価値の対価がお金である必要もない。
例えばうちの店ってお客さんからいろんなモノが集まってくる。「田舎から送ってきた果物が多すぎた」とか「〇〇に渡して欲しいからこれ店に置いといて」とか。この店に来た人しかこの感覚は分からないかもしれないけど。この店さえ保てていれば食いっぱぐれることはないな、と思ってます。

そしてこれから先、飲食店や他のビジネスも、値段以上の価値を払ってくれないと成り立たないんじゃないかって気がします。お金に余裕がある人たちは好きな店だったら、価格以上の支援して欲しい。
うちではそういう支援の方法を見える化する為に、少し前から「スタッフ飲めます」みたいなチラシを貼ってみてます。スタッフが客に奢ってもらうことで面白い場の雰囲気が作れたり、それを見た周囲の客が「店の人と一緒に飲んだりしていいんですね」ってなる。今回の一件で、店舗と顧客が対等の立場で希望を示して摺り合せをしていいんだ、って気づいた感じですね


:そういえばヨッシーが(オンライン上に)来る前の雑談で、石塚さんから「パラレルワールド」が「ニューリアリティ(New Reality)」と英訳されているのはなぜ?という質問がありました。「パラレルワールド」という言葉は欧米ではSFチックすぎるという訳者の意見があり、何案か出してくれたあとにニューリアリティ(New Reality)に決まりました。あえてニューノーマル(New Nomal)ではなく。そこに深い議論はなかったんですが、とてもいい響きの言葉だなと思いました。

:いい言葉ですね。

:なぜこの話をしたかと言うと、ヨッシーのマルショウアリクというお店はコの字カウンターになっているんですが、僕にとっては人が集まる泉のようなものに思えたんです。

マルショウアリクさんのコの字カウンター(写真は2019年のもの)


:あとは松陰神社の参道であるっていう意味合いも大きいのかもしれません。そういうのも含めてリアリティとか場の持つ力みたいなものに重きを置きつつ、昔ながらのいいものを今に置き換えながら、このよりあい商店の活動を進めていきたい。

:なるほど。どちらの話も興味深いです。
特に廣岡さんの話からは、お店の中での「店舗側からのサービス」と「顧客側からの支払い」という従来とは違ったもう一つの新しい流れがよりあい商店から現れ始めているように感じました。そのような新しい動きは、廣岡さんの店以外の場所でも起こっているのでしょうか?

:そうなんです。ぼくは今回ニューリアリティ(New Reality)という言葉を聞いて新鮮だなと思ったんですが、ちょっと前からニューバランス(New Balance)という言葉も使っていて。「新しい均衡を生み出す」って言う意味だと思うんですけど。人々の中には日々感情の差、所持金などの差などがあって、それらの調和をとるわけなんですが、やっぱりリアルで対峙した時にしかわからないことがある。僕は人に対する興味が止まらない人間なので、仕事でもプライベートでもそういうことに気づきたい。

:今回起こった事は松陰神社前ならではのものではなく、たまたまこの場所が気づきやすい場所だっただけ。ここで気づいたことを全国に広げていきたい。

:いいですね。最後に今後のよりあい商店としての展望を道山さんから、店舗としての展望を廣岡さんからお聞きしていいでしょうか?

:ある全国規模の大手食品メーカーさんとのコラボが始まっています。商品を無償提供していただき、店主のアイディアで新メニューを開発する企画で、お鮨、コロッケ、レモンスカッシュなど、かなり人気となっています。それを「よりあいコラボ」と呼んでいて、当初予想しなかったカタチでの活気が生まれているんです。

よりあいコラボ商品「蜂蜜レモンスカッシュ」

:さらに最近、小山薫堂さん率いる京都の下鴨茶寮という老舗料亭の本店と銀座店がよりあい商店に参加してくださり、お店の幅も地域も広がりました。他にも様々な企業や団体からもお声がけをいただいています。利用実数が増えるのも嬉しいですが、こういった輪が広がることも嬉しい。店も客もどんどん寄り合いながら、いいニュースを提供したいです。

:これからは地域の縛りはなく寄り合っていくということですね。廣岡さんいかがでしょうか?

:具体的にはないんですが、最近意識していることがあります。今まで可動していなかった部位を動かしてみる為に、そこに意識を集中してみる、ということです。例えばうちは牡蠣屋さんで居酒屋なのに、テイクアウトの期間は牡蠣もお酒もだしていない。「でも生きてるぞ。なんで?」と思うんです。

考えてみると自分は喋れるし料理を作れるし野菜や調味料のことも知っている。正直手の上に何も載っていなくても、お金を稼げるんじゃないかと思った。それが「気づいていない可動部を生かす」という意味。そう言う形で今までやってきた店の6年間の実績を、今後も存続させていきたい。

:すごくいい話ですね。実は今回のインタビューは、具体的なテイクアウトサービスの話になるかと思っていました。
ただ実際に話を聞いてみると、停滞ムードの世の中に届けたいマインドの在り方の話になっている。そこが本当に面白かったです。道山さん、廣岡さん、今日は本当に有難うございました。

取材を終えて

世の中が停滞ムードだった4月に、飲食店常連客の有志が立ち上がり昔ながらの「よりあい」というコンセプトとITの力で地域を盛り上げる試み「よりあい商店」が、松陰神社前からスタートしました。
その原動力となったのは、もともと地域にあった「自律的」で「おたがいさま」という質の高い店舗と顧客の関係。そんな新しい関係が、松蔭神社前にポジティブな空気を生み出していた、という興味深い今回の話。
取材前は最新の非接触型テイクアウトサービスの仕組みを伺うつもりが、松陰神社前商店街の自律的な地域の繋がりの話に終始した感があり、それはいい意味での裏切りでした。

そして今回のお二人の話には、これからの地域の商店街を元気にするヒントが沢山詰まっていました。近いうちにそんなよりあい商店さんが生み出す新しい店舗と顧客の関係を楽しみに、松陰神社前を訪れようと思います。

参照リンク

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